北からのオキャクサマ
震災は人も物もぐちゃぐちゃに掻き回して去って行ったが、その余波はまだまだトラストルノの随所に残っていた。
東西南北の代理戦争組織はこの機に逃げようとする兵士を捕まえたり、逆に職を求めてやってきたもの達の形だけになりつつある診断をしたり…
SOUPもてんやわんやで1週間を費やしていた。
そんな折、南地区の代理戦争組織であるSKANDAに北から1人の客人がやって来た。
SKANDAのボス、王グプタに用があってやってきたというКировからの美人使節は上品な立ち居振る舞いでありながら、南地区の男達を次々と虜にしていく。
「案内どうもありがとう。」
南地区では珍しい真白の肌を持ち、落ち着いて出しゃばらない。礼儀正しく、華はあるものの決して目立ち過ぎない控えめな美女。
男達は我こそはと案内役を買って出る。
すると美女は、その中で1番の醜男を指名し、案内を終えた彼の頬に優しくキスを落とす。
「おい、最近王の所に綺麗な女が寄ってきてるのはなんでだろうな?」
「いやお前、この間来たのは男だろう。」
「でも綺麗なやつだった。」
「あぁ、俺にもあんなキスをしてくれねぇかな〜あのロシア美女。」
男達は口々に思ったことを言いつつ、建物に入っていく美女を見送る。
「こちらのお部屋で少々お待ちください。」
「えぇ、失礼いたします。」
さて、どうしたものか…
美女は席に着くなり表情を落とす。すると不思議なことに、先程までの控えめな美しさはすっとなりを潜め、なんとも印象の薄い顔が現れた。
正確には、顔自体は変わっていないのに、全く別人かのような空気になったのだ。
グプタを殺すのが手っ取り早い…しかしそうなれば体制が崩れ、南地区の参戦そのものが危ぶまれるかもしれない。
それに、カンパニー同士の戦争のついでに潰しておきたい連中がいる。
武装集団とかいう連中。
危険因子は先に徹底的に排除しておいた方がいい。しかも連中はPEPEの東校に忍び込んでいる。今潰しておかなければ、いつ東校の生徒が危険な目に遭うとも限らない。
しかし…潰すとなると、誘拐されている生徒2名の安否が確認できてからでなくてはならない。
現状は大変やり辛い。
北地区が相変わらず協力を申し出てくれたのは有難いが、ヘマをすれば素知らぬふりで切り捨てられるのは火を見るよりも明らかだ。
美女が心中、不穏な計画を練っていると、扉がゆっくりと開きSKANDAの王グプタが現れた。
相変わらず白く濁った瞳で美女のいる方を見る。
美女も立ち上がりグプタを見ると、グプタが席に着くのを待ってグプタのそばに寄り、膝を折るとその手の甲に優しいキスを落とす。
相手に慈愛の情が伝わるように。
しかし美女の目が狙うはグプタの命。
喉をかき切ろうか、心臓を一突きか…はたまた銃で撃ち殺してしまおうか。
そんな殺気は微塵も出さず、手の甲から顔を離す。
グプタは嬉しそうに微笑み、そして愛おしそうに美女の名前を呼ぶ。
「ようこそ、いらっしゃい。
久しぶりだね。
ティト・コルチコフ嬢。」