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トラストルノ  作者: なさぎしょう
花札遊
196/296

パンドラの匣 4


はたっ…と目が覚める。


「はぁ……」


これから燈の発表だったじゃない…それから人形浄瑠璃に、秀にぃの舞踊、あずねぇの歌、と続くのに…

もう一回目を閉じれば見れるかしら。

でも、もし悪夢に変わったら?






ジェスターは輝かしい日々の夢を諦めて、ベッドから起き上がるとリビングに入っていく。


部屋の中は以前ケイトを招いた時からさほど変わってはいないが、地震の影響で壊れたものがゴミ袋にまとめられていたり、棚から落ちたものが一旦端の方に積まれたりしている。

ジェスターはボトル入りの水を飲みながらその積まれた山の一つに近づいていき、その近くに腰を下ろした。

まだ外は暗く、星々の煌めきが鮮やかだ。


ボトルを横に置くと、その山の1番上に置かれたえんじ色のアルバムを開く。




『亜細亜座1周年』


写真の横には全て一言添えられている。これを書いたのはあずねぇだ。懐かしい。








「まさか母親になっていたとはね…」


行方をくらましていた秀にぃがある日ふらりと亜細亜座に立ち寄り、「梓と結婚した…子供もいる。」と教えてくれた。

別にそこまで驚いたわけではなかったし、置いて行かれたことに対して怒りもなかった。

しかし結婚だけでなく、子供も産まれていたのには驚いた。あずねぇは有名な家の一人娘だった。だから、いずれはきっと戻る運命で、そしていわゆるお世継ぎを産む運命だったんだろうな…


ひさしぶりにあった秀にぃは少し疲れてるみたいだったけれど、相変わらずかっこよくて綺麗なまま。でももうウィンクはしなそう。

写真で見たあずねぇも相変わらずの別嬪さんだったけど、やっぱり疲れているみたいだった。




「少しだけ…お茶しないか?」


「うん、いいよ。」


2人の間に快活な空気はもう無い。ただ重くとも懐かしい空気だけが漂っている。

近くのカフェに入ると、秀にぃはスーツのジャケットを脱ぎネクタイを少し緩め、座ってため息をひとつつく。


「疲れてる?」


「え?あぁごめん。今日会議があってね…」


「そっか。」


輝かしく温かい日々がつい昨日のことのようだ。


「俺は…謝りたくて…燈のこと。」


「なんで?秀にぃは悪くない。」


「あの女と兵士共は見つかったのか?」


「さぁね、それは教えてあげない。でもそれは秀にぃが悪いとは微塵も思ってないからだよ。」


そうだ。燈のことを守れなかったのは、秀にぃだけではない。それになにより悪いのはあの屑女と能無し兵共だ。


「な、なぁ…泉と霞はどうした?」


「いずとかず?2人は…死んじゃった…」


「……そうか。奴等か?」


「うん…奴等はね、かずが欲しかったみたいで…でもかずはもちろん行きたがらなかったから、私に置き手紙だけして逃げちゃって…」


霞は身体能力が高く、亜細亜座に3人しか残らなくなった時、人形浄瑠璃だけではなくアクロバティックな見世物なんかもやってくれていた。それが逆に仇となり、目をつけられたのだ。

兵役は義務ではないのに、奴等はしつこかった。


「でもある日いずから一本の電話があったの。死にそうな声でね…『かずを助けて』って言われて、死に物狂いで探した。でも……その時にはもう2人とも死んでたの。」


「欲しがってたのに殺した…?」


「ううん、一部始終を見てたっていう下級兵士の人が教えてくれた。2人とも捕まっちゃって、かずがそれでも『絶対にお前らの為になんか、外で傍観してる奴らの為になんか戦いたくない‼︎死にたくない‼︎』って抵抗していたらしくて…それはもう凄まじかったんだって…」


秀にぃは顔をしかめる。あの双子を特に可愛がっていたから、痛々しくて聞いているのも辛いのかもしれない。


「で、言うことを聞かせるために、かずの目の前でいずを拷問にかけたらしいの……それでもかずは『やめて』って繰り返すばっかりで、兵士になるとは一言も言わなかったそうなの…それでね、たぶんやり過ぎたんだと思う……かずの前で、いずが死んじゃった。」


霞が命より大切だと豪語していた大好きな兄が目の前で死んでしまう…発狂してもおかしくない状況だ。

簡単に人を拷問にかける連中も連中で、どこかぶっ壊れているのだ。


「そしたら急にかずは大人しくなって、とりあえずは部屋に戻されたそうなの。その時にどうしてもってかずの要望を聞く形でいずの遺体がその部屋に運ばれたそうなんだけど……翌朝には拳銃で頭を撃ってかずも死んでたんだって……壁には血で文字が書かれてたんだって。なんて書いてあったと思う?」


「さぁ…恨みごと?それとも泉への愛?」


「ううん………






『Serves you right!!(ざまぁみろ)』」








その後も少しだけ話をして、秀にぃとは別れた。




ジェスターは、自分が"武装集団(トランプ)"に入っていることをあえて言わなかった。気づいているかもしれないが、ジェスター自身が言わなければ、知らなかったと同じこと…万が一関与を疑われても、秀にぃには罪はない。

まぁ法律があるわけではないから、カンパニーやSOUPが疑わしきは罰せよ、となってしまえばそれまでだが…まぁお家が守ってくれるのではなかろうか。



あの日から秀にぃとはちょくちょく会っていたが、最近は全く会っていない。

それもそのはず、向こうは忙しいだろうから。

しかもその忙しい原因を作ったのは他でもない、ジェスター自身だ。


それにしても、大戦の予感と震災…不謹慎だが、これほどの好機はない。奴等に、燈を奪った屑共から、今度は私が………



奪う番だ。



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