パンドラの匣 3
お客さんはたったの5人…出演者は8人…
「お客さんの方が少ない…」
鈴が呟くと、隣に立っていた美青年------秀が頭をかきながらはにかんだ。
「まぁ5人だろうが100人だろうが来てもらえるだけありがたいからな。頑張ろうぜ。」
鈴は頷くと舞台とは別の入口から入り、上に登る。幕の開閉と音楽。あとはみんなの発表を見て、感想をくれと指示をされた。燈と双子の発表内容は大方練習の時に見て知っているが、他の人達が何をやるのかは知らない。
そういえばもう一つ仕事があった。初めのアナウンスだ。
マイクを切り替え息を整えると、原稿を見える位置に据え、スイッチを入れる。
「本日はお越しくださり、誠にありがとうございます。七つの演目に加え、途中お茶菓子の振舞いもございますので、最後まで五感で楽しんでいってくださいませ。それではもうまもなく開演となりますので、今しばらくお待ちください。」
なんとか噛まずに言い切り、出番が最初の遙と奏から合図があるのを待つ。
あ、合図が来た…‼︎
いよいよ開演だ。
ブーッブブーッ…
ブザーの音と同時に幕を引き上げる。幕開きで舞台上に立つ2人の膝辺りまで見えてきたところで、たくましい音が会場を満たし始めた。
ドンドンドン…タカタッタカタッ…ドドン、ドンドン、ドドドド…ドドン‼︎
2人の和太鼓に合わせて…最後のドドン‼︎の部分で開ききるように…
鈴は心の中でしきりに教えられたことを繰り返しながら、完璧なタイミングで開ききる。
この2人は音楽は使わない。
身を乗り出しつつ2人の快活で力強いな和太鼓に見入る。
かっこいい…
|はるねぇもかなさんもすごい‼︎
和太鼓の響だけではなく、2人の綺麗なフォーム、引き締まった身体、激しくも揃った動きを強調する衣装……
全てが鈴の心を捉えて離さない。
客も、まさかこんな若者が寄って集ったような見世物処の初公演で、こんなにハイクオリティなものを観れるとは思っていなかったようで、口をあんぐりと開けて、食い入るように見ている。
「はっ‼︎」
最後は2人で息の合った叩き合い。これは喧嘩、そこからの共鳴を表現しているらしい。
最後には掛け声と同時にピタリッと2人の動きが止まる。
それでも太鼓の響きは余韻として空気の中に残っている。お客さんの身体の中にも、痺れがビリビリと残り、しばらく心地よい沈黙が続いた。
そして…
おぉーーー‼︎パチパチパチパチ…
人が少ない分、割れんばかりの…と言えば大袈裟かもしれないが、それでも暖かく大きな拍手と歓声が沸き起こった。
思わず鈴まで精一杯に拍手を送ってしまっていた。
「この拍手を十分に受けてから、次の燈用の音楽を入れる…」
次への入りのタイミングもきちんと見極め、聞き分けなければならない。
今回は下から燈が合図を送ってくれた。それに合わせて音楽をかけると、拍手の間から軽調な音楽が流れる。
出囃子…とかなんとか言うらしい。
燈が出て行くと、先ほどまでとは違った迎えるような、優しくそれでいて期待に満ちた拍手に替わる。