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トラストルノ  作者: なさぎしょう
花札遊
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パンドラの匣 2


名前をもらったあの日から、私の移動演物屋(だしものや)の仲間の1人としての生活が始まった。


(りん)は俺達の後輩だから教えてやるよ‼︎」


教育係は(いずみ)(かずみ)という双子の少年になった。2人はちょうど鈴と同じ歳くらいの幼い兄弟で、見た目はとてつもなく似ている。

どちらかというとしっかりしている方が兄の(いずみ)、いつも泉にくっついている方が弟の(かずみ)である。


「鈴は出し物には出ないんだろ?ならまず幕の開閉と、音楽の切り替えだな」


「?うん。」


泉が仮組みをした舞台上から合図を送ると、霞が手を挙げ返事をしてから取っ手を持って幕を巻き上げる。それからスイッチを入れるとなんとも楽しげな音楽が流れ始める。


「お金無いから旧時代のものを使っててやり辛いかもしれないけど、慣れれば簡単だから。この曲は俺らの曲‼︎ちゃんと横に番号と誰の曲か書いてあるから。」


「わかった。」


「じゃあちょっと流れをやってみたほうがいいよな…誰かいないかな…」


泉がキョロキョロしていると、霞が人の手を引いて上から降りてきた。


「なにしてんのー?って言われたから連れてきた。」


「いや、俺いまから噺の通し練習…」


連れてこられたのは(あかり)。鈴をここへ連れてきてくれた人。鈴の一目惚れの相手だ。


「ならちょうどいいや。燈、なんか一つ二つ噺やってよ。鈴の曲入れと幕の練習するから。」


「ちょうどいいって…いや、別にいいけどよ…」


燈はなにかブツブツいいながら奥に行ってしまう。


「行っちゃった…」


「あぁ大丈夫だよ。着替えに行っただけ。」


鈴が呟くと、霞が手を顔の前で振りながら教えてくれた。


「じゃあ鈴は霞と一緒に上に行っといて‼︎で、燈のでなんとなくやり方わかったら、霞は降りてきて僕らも軽く通してやってみるから‼︎」


「うん。」


「わかった。」




しばらくすると、燈が旧日本のワフクという服に着替えて戻ってきた。


「じゃあ、燈が手を挙げたら幕を上げ始めて。」


「うん。」


霞からの指示があるとほぼ同時に燈が片手を軽く挙げた。鈴は慎重に、しかし力強く幕を引き上げていく。

そして引き上げ終わると今度は燈が舞台上に出て行くのに合わせて音楽をかける。


「うまい、うまい。今から燈の噺聞けるよ。」


鈴は上から覗く。






「えぇー本日はこんな汚いところまでようこそお越しくださいました……」



すごい…


鈴は思わず聞き入る。出来れば客席側から見たいくらいに、その噺は鈴をひきつけた。

抑揚やテンポが絶妙で、話の中にどんどん吸い込まれる。それになにより…くるくると変わる燈の表情に鈴は釘付けになった。真正面から見れないのが残念だが、それでも分かるくらい、はっきりはっきりと変わっていく。


「すっごい…‼︎」


「それ、後で本人に言ってあげるといいよ。調子乗るから。」




霞はまだ燈が終わりきらないうちに、スルスルと下に降りて行ってしまう。

鈴は1人になった途端不安が募り、拳をぎゅっと爪が食い込むほど強く握りしめて次の合図を待った。


燈が終わる。退場の音楽をかける。それから、拍手分の間を置いて、双子用の音楽をかける…


2人は大きな台と人形とを持って舞台に上がると、その人形を台座の後ろに隠れながら動かし話を進めていく。

ただ2人が小声で確認し合っているため、鈴の位置からでは声が全く聞こえない。

それでも色白な女の子と思しき人形や、龍と虎の合いの子みたいな不思議な動物がくるり、くるりと動く様を見るのは楽しい。

それに合わせて、音楽の音を大きくしたり小さくしたりする。








「完璧だったよ‼︎」


「うん、覚えも良かった。」


「いいじゃねぇか。」


2人の発表も終え、下に降りると3人が口々に褒めてくれる。鈴はそれを聞いてほっとした。


「発表は、しねぇの?」


「うぇ⁉︎うーん…出来るものがない…ので」


「ふーん…じゃあ噺のやり方教えてやろうか?」


燈は目をキラキラさせながら聞く。


「え、でもそんな…人前に出るとか無理です…」


「なんで‼︎やってみなきゃわかんないだろ。あとその敬語さ、俺にはいいよ。俺もここじゃ年少の方だし、なんか敬語で話されるとムズムズする。」


「は、はい‼︎……あ、うん‼︎」


「よし‼︎とりあえず明日の発表が終わったら教え始めてやるよ。」


燈は本当に楽しそうに言う。それを見て鈴も教わるだけおそわってみようかな?と思い始める。






とにかく明日が鈴の初めての本番であり、"亜細亜座"にとっても、初めてお金を取って行う公演だ。なにより、"亜細亜座"としては初めての公演になる。

鈴も含め、みんなの気合は十分。

明日を待ち遠しく思った。



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