静かな燻り
物が余って、金が無い。
この状況に陥った時、手っ取り早くものを売っぱらって金を稼ぐのには方法がいくつかある。
今もトラストルノに吸収されないアメリカ大陸の諸国はこの解決策に、"戦地へ武器を売る"という方法を選択した。実際、戦争は自国が参加するので無ければ大変儲かる、金のなる木だ。
「しかし、ここに来てさらに稼げそうな案件があがってきたな。」
武器商人や国の上の方の連中は、ほくそ笑む。
思わぬ新たな収入源…トラストルノの各地で発生した大規模震災である。
「物資や人手がある程度必要になるだろう。」
国であれば、ボランティアなどを送るところだが、トラストルノは明確な個人と個人の集合であるがために、支援がしづらい。
個人宛にボランティアを送り込むわけにもいかない。
しかもトラストルノ内に入るのにも手間がかかる。
それならはなから、経済取引の材料…つまり物流の一つとして人も金も動かすのだ。
「好都合。」
最近はトラストルノの中であまり大きな戦争は起こっていない。というのも諸国側が戦争を頼む程の摩擦が起きていないことに加え、どうも兵士として使える人材が減っているらしいことがあった。
「しかし、これで職や家を失うものが出れば、兵士の数も増えるだろう。あとはちょっと火種を落としてやればいい。」
「あっちにいるやつの中で火種を蒔いてこれそうなやつはいるのか?」
「何人かは…」
「それじゃそいつらに連絡をしておけ。問題はどういう風に動かすか…だな。」
もはや、諸国側の経済がトラストルノ無しに回らなくなりつつあることに、気づく者はまだ少ない。
「もしもし?ティティー?えぇ、またあなたに頼みたいって…ごめんなさいね、あなたばかり大変よね。えぇ、聞いているわ。ねぇ、次の任務が終わったらこっちに帰ってらっしゃいよ。どうせ今年で一区切り、卒業でしょう?なんだか嫌な予感がするの。」
電話の向こうからしばし沈黙が返ってくる。
「ティティー…誰かおいて行けない人でもいるの?1人や2人くらいなら連れてきてしまいなさいな。ねぇ、無理はしないでね。」
電話が切れると、電話をかけた女は、チェアーに深く身を沈め、遠い地で引金役として生きる友人を思った。
彼女は今も向こうで大変な任務に従事しているに違い無い。が、彼女自身はとても優しく他人思いの人だった。
そのギャップが彼女を苦しめている気がする。
切れた旧式の電話を握りしめながら、女は顔をしかめた。
トラストルノを壊すつもりなのかしら?
私にこんなことを頼むなんて…
私には心が無いとでも思ってるの?
1人や2人…?足りないわ。最低でも8人は連れ帰ってしまいたい人がいるの。みんな素敵で、そしてとても優秀。
「なんで私が…」
でも結局従うしかないのよね…。
まぁ、大規模戦争になっても、どうせあの子達は兵隊に収集されることなんて無いわね。
だって、未来のお偉いさん達ですもの。