自然災害X
戦場も、娯楽街も、屋台通りも…
揺さぶられ、掻き混ぜられ、押し潰され、流され、そして焼かれて…「地獄のような」と形容するより他にない。
「誰か‼︎誰か、火を止めて‼︎私の店が燃えてしまう‼︎お願い誰か‼︎」
「この下に友人がいるんだ…なぁ、手伝って…手伝ってくれ‼︎」
「あの…‼︎あの、私の子供見ませんでしたか?はぐれてしまって…5歳位の子供なんです…どなたか…」
「おい‼︎そっちに行くな‼︎波がスゲェ勢いで寄せてきてる‼︎」
「避難するぞ」
「待って、写真…あの写真だけは見つけなくちゃ…」
「もうそこまで迫ってる‼︎写真は諦めろ‼︎」
「どっちに逃げたらいいの⁉︎ねぇ‼︎」
「おい、三番隊、四番隊、全員いるか?いるな?」
「ドローンの下敷きになっている者がいます‼︎」
「放っておけ‼︎」
みんながみんな、てんでバラバラに動く。
トラストルノには管理するような組織は無い。火を消すための組織も、皆を誘導する組織も、震災に便乗する犯罪を阻止する組織も…
日頃の仲はどうであれ、みんながみんな死に物狂いだ。泣き叫ぶ子供、発狂している女、立ち尽くす老人…
差し伸べられる手はない。
立ちのぼった火は龍の尾のように、近くにあるものを強かに打ち、そして龍の頭でもって容易く呑み込んでいく。
SOUPは人々のためには動かない。
SOUP自体が多大な被害を被ったこともあるが、なによりSOUPは人助けの組織ではない。利益のないことに動かない。
個々人が「助ける」も「助けない」も決められる。
個々人が「逃げる」も「逃げない」も決められる。
死屍累々
しかしこれも、落ち着けば片付けられていく。
囚われた少年、何人もの子供の命を預かる男、その子供達を率いる子供、その子供の友人達、母を思う青年、息子を想う母親、現実問題から遠ざかる者達、尚も仕事に励む男女、今こそ人々に笑顔を届けようとする者達、それを率いながらも瓦解していく女、冷静な判断でその場を切り抜ける2人の男、そして数多の人々から逃げる脅威とその仲間達……
誰にも平等に、あまりに残酷に、襲ってきたもの。
しかし彼等は生き延びた。強運を持って。
そしてなんて事のないように、またそれぞれの役目に従事し、生きる。埋もれたあらゆるモノには見向きもせず。
「だって、ここはトラストルノよ?
みんな自由、みんな平等。
他人様のために、まして生きてもいないような人のために振り返る義務はないわ。
倫理観?笑えるわね。
だって戦争してるのよ?明日は我が身なのよ?
正義感で食べていけるなら楽なのにね。」