侵入者 SideS
『10(ひとまる)通路に入った。それぞれ持ち場につけ。』
耳につけたインカムから男の指示が聞こえる。胸元のマイクにだけ音を拾わせるように「了解」と返す。
『ジェスター、ケイト…Go‼︎』
合図と同時に2人は影から音も無く飛び出し、するりと門横の守衛室窓口影に潜む。
インカムからはピッ…ピッ…と電子音が数を刻んでいる。あと4回。
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
今度は守衛室横の茂みに2人で身体を滑り込ませ、少女が先に茂みの奥、鉄柵の真正面に着く。そしてそのうちの2本の一部をくるくると回し、いとも容易く取り外すとあっという間に鉄柵の向こう側へ消えていった。
次に白髪の男が続く。彼もするりと向こう側へ回り、今度は鉄柵をくるくると元に戻す。
2人が鉄柵の内には入って一瞬の後、インカムからの電子音が途絶えた。
「侵入成功。これより二手に分かれる。」
少女が手で合図すると、少し離れたところにいた白髪の男が頷き奥の建物が連なる方へ姿を消す。
少女はもう一度手で触れ、武器を確認すると、白髪の男とは反対側に回り込むように走り出した。
「OK、ClassAの棟に着いた。これより内部侵入後、配置につき待機する。」
『了解。』
インカムから聞こえてくる相棒の声に、事は滞り無く済んでいる、と実感し安堵する。
実のところ、誰よりも楽観的なように見せて、誰より不安が強い。
だから前に出ての戦いに向いていない。彼に狙撃手を勧められた時は、驚いたが同時にほっとしてもいたし、彼に狙撃手として必要とされること、にも優越感を感じることができている。
「屋上に到着、これより監視を開始する。」
『頼んだ。』
頼まれた。今回もしっかりフォローしようじゃないか。
ライフルを慣れた手つきで組み立て、小型の脚を取り付けうつ伏せに寝る。本当は胡座の方がここからだと狙いやすそうなのだが、いかんせん"白"が目立つ。髪を隠すためには、風で煽られないよう、極力体勢を低くする必要があるのだ。
さて、彼女は上手くやってくれるか。