自然災害9
キングについて電車を乗り継ぎ、"アサクサ"へやってきた。そこはなんだかさっきまでいた新宿とは雰囲気が違う。
懐かしいような、それでいて物悲しいような…
「ここでちょっと荷物だけとったらまたさっきと同じ電車に乗って、"千葉"に行くから。」
「チバね…えぇもうなんでもいいのよ。」
「トラストルノとは反対側の海に面してるんだけど、そっち側からグルリと回ってトラストルノに行ける航路がある。」
キングはとても心強い。ただ、見た目の幼さの割に表情が動かない感じが不気味でもある。
しかしエノラはキングのことを好いたらしく、アサクサに向かう電車内からずっとキングの隣に座ったり、今なんて手まで繋いでいる。
「なぁ、なんか微笑ましいな。」
シロが小声でアズに耳打ちしてくる。アズも「そうね」と同意し、少し表情を緩ませる。
「あった、ここのロッカーだ。」
少し大きめの荷物ロッカーを見たアズとシロは驚いてしまう。
「こんなところにロッカー⁉︎なにを考えてるの⁉︎」
その驚きようにキングは驚いてしまう。
「え、なに?別に鍵はついてるよ。」
「そんなのこじ開けられたり、中に爆弾が入ってたりしたらどうするのよ?」
アズやシロのようなトラストルノでの常識の方が備わっている人間からすると、こんな誰もが通るような道にロッカーを設置するなど愚の骨頂。
トラストルノでは基本的になんでも"個人の責任"。つまり物を盗ろうが、盗られようがその人の責任だ。
だから平気で物は盗まれるし、こんなロッカーを設置しようとも、利用しようとも思わないのだ。
「あなた達の常識は知りませんけど…少なくとも現代日本ではそうそう無いですよ、そういうのは。盗まれるってのはまぁ場所によってはあるようですが。こんな監視カメラもついてて、交番の目と鼻の先で、しかも最新の鍵がついてるロッカーは狙われないです。」
「そ…そう。平和なのね。」
トラストルノで聞いていた印象と、大分違う日本の様子に度々驚きつつ、キングが二つのロッカーから取り出した馬鹿でかいリュックを背負う。
「なにが入ってるの?」
「寝袋だとか、簡易バスデッキだとか…まぁしばらく身を隠すうえで必要なあれこれですよ。」
準備がいいな…
アズもシロもキングには感心しっぱなしだ。
先程、手伝ってくれた人がいる。と言っていたが、その人がしっかりしているのだろうか?
なんだっけ…ジェスターって言ったか?
「あ、いまあそこのエアスクリーンでニュースがやってますね。ちょっと見ていきましょう。」
「街中にエアスクリーン…?」
キングいわく、広告やその日の主だったニュースなんかを表示してくれるらしい。確かにそれはなかなか良い。エアスクリーンならトラストルノにもあるのだし、ぜひやってもらいたいものだ。
そのエアスクリーンの中では、目の大きな絵のような女性が背筋を伸ばし話をしていた。
『それでは、次のニュース……‼︎たった今緊急速報が入りました‼︎
現在長期渡航禁止、および閉鎖されているユーラシア大陸において、大規模な地震が発生している模様です。
また一つの地震が次の地震を誘発、ただいまいくつもの地震が連続して起きているようで、日本国内でも地震に対して警戒を強める"特別警報"が発動されました。』
日本ではユーラシア大陸、と呼ばれているのか。
なんてぼんやり考えていたが、しばらくして意味を噛み砕き、アズ達は顔を見合わせた。
「トラストルノで…地震?」
「詳細を確かめる必要がありますね。とりあえず日本でも地震が起きて電車が止まれば厄介です。一旦千葉に向かい、そこでトラストルノにいる仲間と連絡を取ってみます。」
キングについて、また電車に乗り、千葉への途についてからも、アズやシロは信じられない思いでいた。
だって、あのトラストルノで地震…
戦争なら慣れたものだろうが、自然災害にはめっぽう弱いように思う。いま、トラストルノ内はぐちゃぐちゃなのではないか…
地震頻発地域の日本とは訳が違う。
あらゆる地震対策の発展を遂げ、建物の耐震やらなにやらと完璧と言って過言でないような日本では考えられないような被害が出るだろう。
トラストルノ体制の崩壊は…もはやこちらが動くまでもなく、すぐそこまで迫っているのかもしれない。