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トラストルノ  作者: なさぎしょう
花札遊
187/296

自然災害7


姐様(ねえさま)‼︎本日は舞台には上がられないのですか?」


「えぇ、今日は上がらないわ。楽小屋(がくごや)の改修工事をどうするか考えなくっちゃいけないから。」


ジェスター------ここでは(りん)、が"楽小屋(がくごや)"と呼ばれる、出演者達の控え室がズラリと並び入っている小屋の方へ向かっていると、ミナという少女が声を掛けてきた。


ミナはこの亜細亜座(あじあざ)で小間使いのようなことをやっている。

本来、亜細亜座では、新人の芸人やら表現者(アーティスト)達が限られた少ない出番の合間であれやこれやと雑務をこなす。

が、ミナは決して舞台の上には上がらない。

ただ裏方として働きたい、と鈴に直談判しに来たのだ。鈴としては別に小間使いが必要なわけでは無かったが、といって金も有り余るし、適当にお茶でも汲んでもらって給与を渡すことにもなんら問題は無かった。




「私、どうしてもここで働きたいんです‼︎」


まぁ簡単に言えば気迫に押された。

鈴はミナほどの少年少女では普通手に出来ない程の金額でミナを雇った。

しかも専属のお付きのような位置につけてあげたのだ。


結果としてはミナを雇ったのは正解だった。お茶汲みだけのはずが、ミナは色々なことによく気づく。


鈴だけでなく、すべての出演者の顔と名前を覚え、お客からの人気を把握すること。建物内の隅々まで行き届いた清掃と清掃の最中に気がついたこと。出演者達な新人などが鈴には言えずに漏らしていた不満。などなど…

それらを全て5日毎にノートにまとめて鈴に渡してくれる。

だけでなく、とにかく気が効くので、鈴以外の古参出演者からも重宝されているようだった。




「一緒に行く?」


「いいのですか‼︎行きます‼︎」


鈴が楽小屋への見廻りに誘うと、ミナは嬉々としてついてきた。


「やっぱり…随分老朽化が進んでいるのよね…」


「確かに舞台のある本館と比べると大分…そのー…ガタがきているというか。」


鈴とミナはまず建物の外を一周してから、うーんと唸った。実は本館よりも古く、内装はきちんと綺麗にされているものの、建物自体の老朽化は目に見えて明らか。

中に入って歩いてみると、一階の廊下の所々がギシギシと鳴く。


「困ったわ…」


想像以上の廃れ具合に鈴はため息を吐いた。


「これは、もう建物自体を建て替えた方が早いですよね?」


「そうね…ただ崩すのも一苦労で。爆薬でも持ってきて吹っ飛ばしちゃおうかしら。」


鈴とミナは首をひねりつつ、もう一度外へ出てあれこれ考えを出し合った。


「もう一度作り直す場合には3階建てにするんですよね。ということは作りもより強固にしないと。」


「まぁ建てること自体は頼むツテもあるからいいのだけど…完全立て直しとなると中にあるものも全部出さなくてはならないしね。」








ドドドドドドドドッ…グラッ


ガタガタガタガタガタッ…‼︎




とんでもない衝撃。身体が思い切り浮き上がったかと思うと、今度は左右に揺られ、そのまま2人揃って転倒する。


「ミナ‼︎大丈夫⁉︎」


「は…はい‼︎この揺れ…爆弾が落ちた、とかではなさそうですよね…⁉︎」


トラストルノと言えば、戦争産業。真っ先に爆弾の落ちたことを予測したが、それにしては揺れが長い。

しかも縦に揺れたのは一瞬で、次には左右に激しく振られている感覚がある。


「……もしかして…地震⁉︎」


鈴がつぶやくと同時に、2人の側から嫌な音が聞こえてきた。



ギシッ…ギシッ…ミシミシミシッ…


「姐様…なんか…鳴ってます…」


「ミナ‼︎立って、立ちなさい‼︎建物から離れて‼︎」



ガタガタガタッ‼︎


ミシミシミシッ…

ビシッ…ギッギギギィーーッ


ズッシャァァァーーーン……



揺れが収まったと思うと同時に、建物が一気に崩折れた。一階部分は潰れ、二階部分も盛大に壊れる。


「あわゎ…」


ミナは足元に転がってきたどこかの、なにかの金属を見て、間一髪建物の崩壊に巻き込まれなかったことに胸をなでおろした。


「まさかこのタイミングで、とはね。いざ崩れると一瞬ね。やっぱり建て替えるべきだということが今ここに証明されてしまったわ。」


鈴は崩れた建物の残骸を見ながらそうぼやいた。






先ほどまであったものが、一瞬のうちに崩れ去る様を見て…

鈴の中でも何かがゆっくりと瓦解していく。


その無表情とも侘しさともとれる表情を、ミナはただ1人言葉もなく、見ていた。


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