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トラストルノ  作者: なさぎしょう
花札遊
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自然災害4


結局、南地区(サウスヤード)に5日も足止めを食らった。グプタはあれやこれやと理由をつけてジャックを足止めし、使用人やSKANDA(スカンダ)の構成員も嬉々としてジャックを迎え、帰そうとしない。


交渉成立を祝う席にはSKANDAの幹部や南地区(サウスヤード)の富豪達も集まってくる始末で、ジャックは外からの、言うなれば客人であるにも関わらず、接待役に回ってしまった。しかも、母親(クイーン)譲りの美顔。

才色兼備、眉目秀麗…まぁとにかくあらゆる褒め言葉を持ち寄り老若男女がジャックの元へ下心丸出しで挨拶にくる。


「こんな立派になっていて、私も驚いたのだがね、このままずっとこちらにいて欲しいくらいだ。」


しかし他のどんなことよりも、ジャックをイラつかせたのは、グプタが来場者みんなに挨拶の度に、ジャックを我が物顔で(・・・・・)紹介することだった。






連日連夜のアレコレも過ぎて、気づけば5日。


「他にも所用があるので、申し訳ありません。」


なんとか帰る許可を得る事が出来た。

そもそも"許可"、なんて妙な話だ。ジャックは別にSKANDAの人間ではないし、グプタ個人の所有物でもない。

そりゃ交渉で俺自身(イディ)が欲しいとは言われたが、俺にはジャックとしての仕事がある。


「明日には帰れる。ジャックに戻れる…」


女王(クイーン)の前ではあれ程"息子(イディ)"に戻りたいと思うのに、ここにいると"構成員(ジャック)"でいたいと思う。


なんとなく虚しさを感じつつ、ジャックは与えられた部屋のベッドに腰掛けた。






ドドドドドドドッ……



ドンッ‼︎ガタガタガタガタッ‼︎




嘘だろ…。


ジャックは慌てるよりも、なによりも先にまずそう思った。

帰れなくなる、と。


「勘弁してくれ…。」


部屋の窓から外を見る。塀などでよく見えないが、奥の街の方から早くも黒煙が上がっているのが確認できる。

この建物自体に損傷はそれほどないようだが…


「逃げる…か?」


いや、馬鹿だな。そんなことをしたら交渉決裂は確実だ。


「ジャック様‼︎お怪我はございませんか‼︎」


構成員の1人が慌てて駆け寄り、なんの許可もなくベタベタと触って、怪我などがないか調べ始める。


「無いよ…無いですよ…怪我は何処にもない。仲間が心配ですから僕は身支度を整えて戻ります。あなたも僕なんか良いですから、他の仲間の様子を見に行った方が良いのでは?」


「そんな‼︎こんな大きな揺れは始めてです。交通網も完全にアウトでしょうし、もう暫くこちらにいてください。グプタもそう仰っていますし…ささ、お怪我がないかもう少しちゃんと調べますから、大人しくしていてくださいね。」


なんだか、もう疲れた。

なるようになれ。

知らん。もう何も知らん。


ジャックの中で自暴自棄な思いが出てきて、あるゆる抵抗心やらなにやらを食っていった。

イディはされるがまま、動かず座っていた。










「ねぇ、ジャックから連絡は無いの?」


テンは耳を疑った。女王(クイーン)からジャックのことを聞かれたのは、初めてでは無いが随分久しぶりのことだ。

連絡なんて、痺れを切らしてこっちからかけてるのにも出ない。


「無い……です。もしかしたら端末を没収されてるのかも…。」


「なんのために?」


なんのため…と聞かれても。


「さぁ…ジャックは人からよく好かれますからね。案外あちらの女性達に好かれて、帰られないよう端末を奪われた、とかそんなことかもしれませんよ。」


テンは何の気なしに、いやむしろ散々ジャックに冷たかったクイーンに対する嫌味もこめて言ったが、クイーンからの反応があまりになく、おそるおそる彼女の方を見た。


……っ⁉︎


手にアルバムを開いて、あの(・・)女王(クイーン)が涙をいっぱい目に溜めている。


「ど…どうしたんです⁉︎」


さすがに言いすぎたかと、テンは慌ててクイーンに駆け寄る。

そしてそのアルバムの中身を見た。


「あ…‼︎」


小さい頃からつい最近のものまで、中は全てジャックの写真で埋まっているようだ。

中にはクイーンが幼き日のジャックを抱き、2人でにこやかに写る写真なんかもある。


「これ……」


すると、クイーンは人差し指を口元に当て淋しそうに笑った。


「…内緒よ。母親(わたし)友人(あなた)だけの秘密。」


「………。」


テンは、それがなんだかジャックにあまりに残酷なことをしているような気になって、しかしどうすることもできず、ただ頷いた。






ドドドドドドドッ…


「なにかしら?」


2人がなんだか気まずい沈黙の只中にいた、その最中にそれは突然やってきた。地鳴り、衝撃、激しい揺れ。


女王(クイーン)‼︎デスクの下へ‼︎」


慌ててクイーンを押し込み、自分もそこへ身を滑り込ませる。

テンはその時、クイーンの本性、と言えばいいのか、本能(・・)と言えばいいのか…とにかく一面を垣間見た。


アルバムを大事に抱え、自分の身でもってアルバムの方を守ろうとしていたのだ。




クイーン…やっぱり、俺はその気持ちを、なんで隠してるのかは知りませんけど…息子に、ジャックに言ってやるべきだと思います。


テンはしかし、そのことを口に出来ず、ただ揺れが収まるのを待った。











どうか、どうか…イディは無事でありますように。


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