自然災害2
名影は「妄想だ」という芦屋校長の言葉を受け止め、それが真実か否かはさておき、それが校長の答えであるなら…と受けとめいさぎよく引き下がることにした。
「…わかりました。引き続き生徒名簿の纏め作業および伏舞人、カルマ両生徒の奪還に動きます。」
「あぁ…ところで、零くん個人には彼等は何も求めてこなかったのかい?」
名影は部屋を出ようとしていた足を校長の方へ戻し、首を傾げた。
「私個人…とはどういう意味でしょう?」
芦屋校長はじっと名影の目を見る。
そして少し間が経つと、首を振った。
「いや、なんでもないよ。そちらは君に任せる、とそう言った以上これ以上の詮索は無粋だろうしね。しかし…」
芦屋校長の目がまた名影を捉える。
「しかし、よく気をつけるんだよ。くれぐれも無茶はしないように。何かあれば、微力ながら私も手を貸そう。」
そう言った芦屋校長の表情は、名影の目にはとても優しく温かいものに映った。
父親の目だ。
名影は咄嗟にそう思うと、なんだかこのやり取りすら茶番のように思えてきて、ふふっと笑いながら頭を下げ、部屋を出た。
「失礼しました。」
なかなか…良い子達ばかりだな。
芦屋校長は名影の出て行った方をぼんやりと見て、そんなことを思った。
さすがは首席、勘が鋭いなんてもんじゃない。きっと彼女はそれなりの証拠も掴んでいるんだろう。
でなければ、憶測だけで人を問い詰めるようなことはしない筈だ。
「どっからかけ違ったかな…」
一座を立ち上げた日か、不穏な空気に逆らった日か、一座を去らざるを得なかった日か、それとも彼女を見つけてしまった日か……
いや、どちらにしたって、俺はこうなる運命だったんだろう。俺はいい。ただ…妻子には申し訳がない。
「はぁ………」
芦屋秀貴として出来ることはやって来た、と言い切れるだろうか。
いや、息子をすでに1人守りきれていないではないか。
病床に伏せる妻に何かしてやれたか?
せめてもう1人の息子には激励の言葉でも掛けてやれば良いのに、それも出来ずにいる。
つくづく、自分が、嫌になるな。
ドドドドドドドッ……
「…?地震…か?」
あぁ、本当に嫌になる。
ドンッ‼︎ガタガタガタッ…
瞬間、芦屋は立っていられず、机に掴まる。
重厚な木の机すら不安定な揺れ方をしている。震源が近いのか、尋常ではない揺れだ。
地震自体トラストルノでは珍しいことだ。
それもこんなに大きなものはそう無い。
「最悪のタイミングだな…」
芦屋は、極めて冷静に状況把握に動き出した。