人為災害
「Eが逃げたなど知られたら全世界から糾弾されることになるぞ…」
「歴史上最大の人為災害になってしまいますね…」
「そもそも人類の歴史がここで途絶えてしまうかもしれん‼︎」
TITUSは平生に増して騒々しく、そして構成員、研究員全員が殺気立っていた。
「博士の何名かは消滅を確認…ディモンド博士を早く連れてこんか‼︎」
初老の白衣を纏った男が辺りに怒鳴るように指示を出していく。その喧騒の中を若い研究員の青年が真っ青な顔で掻き分け掻き分けやってきた。
「やっと戻ったか‼︎博士はどこだ?」
「そ……それが…」
十数分前、青年と何人かの連れは、ディモンド博士の幽閉されている病室へたどり着き、息も絶え絶えになりながらその部屋の引き戸を開け放った。
もっと早くに異変に気付くべきであった。
鍵がかかっていないこと、見張りがいないこと…その他にもおかしな点はあった。
しかし、状況が状況なだけに見落とした。
それよりも博士を早く連れて行かねば‼︎と、気が急いたのだ。
別段、その部屋の中に直接的な脅威があったわけではない。
しかし、間接的には、つまり緊急事態に対応し得る人間を失ってしまった、という意味では…それは非常に脅威的な状況であったと言える。
ベッドに眠る青年はまごうことなき、ディモンド博士その人であった。そしてそのベッドに寄り添うように半身を預け眠るのは、その妻、クロエだ。
「ディ…ディモンド博士?イヴァン・ディモンド博士‼︎」
「なんだ‼︎なにがあった‼︎」
「それが…イヴァン・ディモンド博士、およびその妻クロエ・ディモンド女史が……病室にて亡くなっていました…」
「……っ⁉︎」
瞬間、その場に居た全員の動きが止まった。
文字通り、時間が止まったかのように…サァーっと冷ややかな風が抜けた後の静かな湖面。
その冷水の只中に全員が沈められたような心地がした。
「死んだ……?」
見張りは…?
部屋の鍵は…?
クロエ・ディモンドはどうやって入った?いやそれよりも、なんてことをしてくれたのだ。
「…SOUPに連絡しろ。幹部会の準備を、と。
それから、トラストルノの外にも。各国の首脳陣にも連絡をしろ…。」
厄災というのは…いつの時も追い討ちをかけるかのように、襲ってくるものだ。