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「エイト、セブン、キングと連絡が取れません。」
「そうね。」
「ジャックは一向に帰ってこない‼︎」
「えぇ、そうね。」
この問答はもう何度目だろう。
テンは机に向かいあちこちへ連絡したり、何か書類を仕上げる女王の姿をもどかしげに見ることしか出来ない。
「何をそんなにカリカリしてるんだ。」
テンがイライラしているのは、何も女王の態度だけではない。この男------サイスの妙に嬉々とした態度が余計に腹立たしいのだ。
ジャックの不在…しかも先程小耳に入れた話が確かなら、"戦場に送られ死ぬかもしれない"事態が、サイスにとってはこの上なく楽しいのだろう。
「貴様は黙っていろ。」
テンはもはや歳がどうとか、立場がどうとか、そんなことは気にしていられない。
せめて、せめて自分をジャックの元に行かせてほしい…南の連中が何かしてはいないか、拷問の類は受けていないか、自分の知らないところで親友が死にはしないか。
要するに心配なのだ。
「女王様、貴女が許してくださるのなら、私はジャックの元へ向かいます。当然、トランプにとって不利になるようなことは何一つ致しません。」
「何を言う‼︎この人手の足りない時に。」
サイスの偉そうな喚き声にも動じず、テンはなおも食い下がる。
「女王、どうかご慈悲を…‼︎」
女王はチラとテンを見ると、また手元の書類に視線を戻した。
「……勝手になさい。」
「………‼︎」
その言葉に、サイスもテンも驚きを隠せない。
「っわかりました‼︎」
テンは、本当は女王に親友を呼び戻して欲しかった。そして欲を言えば、仲直りをして親子仲睦まじく過ごして欲しいとすら思っていた…
が、現実はそう甘くはなかった。
何がともあれ、とりあえずはジャックの元に向かおう。
「温情ですか?」
「テンは実によく頑張ってくれているからね。」
「テンじゃなくてジャックにでしょう。いまさら母親ぶるおつもりで?あいつは大体が……」
「出て行って。これを終わらせてしまうから。」
クイーンの表情からは、何も読み取れなかった。
サイスは舌打ち混じりに部屋を出て行く。
ジャックの死を、心の底から望みながら。