研究島 旧日本4
「おいしかった?」
ご飯を食べ終え、キングの指示に従って会計を済ませ、順番に時間差をつけて店を出る。そして着替え場所まで向かう途中、キングがエノラに尋ねた。
「うん‼︎みんなでね、ご飯‼︎おいしいかった‼︎」
「そっか…僕も、おいしかった。」
エノラの屈託のない満面の笑みにつられて、キングがふわっと優しく笑う。控えめなその笑顔は、幼さの残る年相応の笑顔だ。
彼だって、エノラと年齢的には大差ないだろうから、もっと笑って過ごしていいと思うのだが…
「また、ご飯一緒に行こーね‼︎」
エノラは自分よりもほんの少しだけ高いキングの視線を真っ直ぐに絡め取り、最高の笑顔で言う。
キングは困ったような、嬉しいような、複雑な表情でその言葉を聞いていたが、瞬間視線を外すと、今度は貼り付けたような笑顔でエノラに答えた。
「…うん、そうだね。一緒に食べよう。」
シロとアズは、そんな2人を見ることが出来なかった。
エノラは本人に認識こそ無いものの、はじめての外で、はじめての同年代の友人が出来たことに、言いようの無い程の喜びを感じていた。
「ここはかつて出口の一つだったんだけど、取り壊すのも後回しにされて、若干物置兼ゴミ置場になってしまっているんだ。」
「はぁーなるほどな。でもって通行人は見向きもしない…と。」
「そう。こっから降りて行って普通に駅構内にも入れるんだよ。」
4人はその階段の中途までくると、立ち止まり一応両端の出口に人の気配が無いか確認する。
「おい、アズ。1人で着替えさせられそうか?それなら俺とキングで両端の出口見張っとくぜ。」
「あぁ、そうしてもらえるとありがたいわ。」
シロは地上側の出口へ、キングは駅構内側の出口へそれぞれ見張りに着く。
アズは両手に乗るほどのサイズの機械をリュックから取り出すと、それを踊り場に置きスイッチを入れる。
シュッーーーーー…
「おぉっ‼︎」
ドーム型に広がったそれを見て、エノラが目を輝かせる。反応がいちいち無邪気で可愛い。
アズはエノラをいい子いい子と撫でながらそのドームの中へ誘う。
「はい、じゃあ1回全部脱いで…それでこの…これを着て…」
ドームの出口がきちっと閉まっていることを確認すると、エノラに全て脱ぐよう催促する。
エノラが一糸纏わぬ状態になると、今度はシルクのような触り心地の透明なシートを取り出し、エノラの頭の上からすっぽり覆う。それからうまく空気を抜くと、ぴったりと、まるで真空パックされるようになる。
「苦しくない?」
「うん。」
「じゃあ服着ていいよ。」
このシートが切れたりしたらアウトだ。だがエノラの動き易さや、呼吸のし易さを考えると、これがベストだ。
呼吸の浄化もある程度はできると言うし、かの博士は本当に天才だったのだろう。
エノラが服を着終えると、重装備のスプレーのようなものでエノラの周りを中心に除染液を散布し、2人でドームから出る。
そしてそのままドームを仕舞うと、シロとキングを呼び戻した。
「すげぇな‼︎本当にシートなんて見えねぇし、よくできてんなぁ〜。」
シロだけでなく、さすがに大人びた子供、のキングまで興味津々でエノラの頬をつついている。
「さぁ、なにがともあれ隠れられそうな場所へ行きましょう。東京は早めに離れたいわ。…というより極力人のいないところへ。」
「それなら良いところを知ってる。とりあえず、一旦浅草の方へ行かないと。」
「アサクサ…?」
キングはテキパキとルートを考えると、迷いなく駅内を歩く。
3人は人混みの中をはぐれないようにしっかりついていく。
先程乗ってきた電車は人がそれほど多くなかった。そう思えるくらい次の電車は人が多い。
うっかり何かが引っかかって、シートが破れれば一大事だ。
その車両内は死屍累々…いやなにも残さず消え去るだろう。
「気をつけて行かなきゃ…‼︎」
4人の足取りは、キングの計らいで完全にTITUSには辿れなくなっている。
あとはどれだけ騒ぎを起こさずにいられるか、が重要だ。