迷宮攻略
エノラはまるで何度も来たことがあるかのように、スイスイと人の波を抜け進んでいく。一瞬も立ち止まらない。
途中、改札の中に入り、何もせずに出たりする。複雑怪奇な駅もあったもんだ。
「そもそも、この子がこんな人混みの中歩いてるとか奇跡じゃね?」
シロがふと思った、とアズに耳打ちすると、「いいから付いていけ‼︎」と睨まれ、顎で急かされた。
エノラを包み、保護する超薄型のシートのおかげで、服から手に掴み変えたエノラの手のひらはしごく普通の、柔らかくふわりとした子供の手の感触がする。
少しヒンヤリとするのは、エノラの体温が低いからだろうか。
「おぉ、全然違う風景になってきた。」
「歌舞伎町方面………?」
先程いた場所よりも、トラストルノの駅に近い雰囲気の場所に出た。地上への出口も二、三箇所しかないし、駅に直接繋がる、所謂"駅ビル"とやらへの出入り口も見える範囲には二つしかない。
「ここ。ここ‼︎」
エノラはいくつかあるうちの一つの出口を指差す。
確かにそこは出口だが…そんなに広くもないし、普通待ち合わせにはもっとでかくて、わかりやすい出口を指名しないか?
と思いつつも、アズはエノラに向き直り、視線が同じになるように少し屈む。
「エノラ、ありがとう。本当に助かったわ。」
するとエノラはぱあっと表情を明るくし、ニコッと笑う。そして得意げにすると、嬉しそうに、しかしおそるおそる、アズの手を握る。
そしてまた「んふふ」と恥ずかしそうに笑った。
アズもつられて笑うと、手を握り返し、帽子の上からエノラの頭を撫でた。
シロはそれを微笑ましく見つめる。
出口から地上に出ると、ネオンと汚れで明暗を示すビル郡が見える。
大きな液晶には髪を振り乱して歌をうたう、髪の長い人。男か女かはわからない。
銀行には人が忙しなく出入りしている。
靴屋の大きな黄色の看板は一際目を引く。
「すげぇな……」
独特の雰囲気にはエノラだけでなく、シロとアズも圧倒された。
「すごいだろう。ここがトラストルノでは"死んだ都市"と呼ばれている。」
声がして3人は振り返る。
そこには今回の協力者……しかし、思ったより…幼い、な。
「僕の名前はキング。ようこそ、東京へ。」