研究島 旧日本2
地下鉄。トラストルノではなかなかお目にかかれない珍しい代物。
問題は地下鉄が旧日本内は縦横無尽に走っていて、慣れないアズ達にはどれに乗ればいいのか分からないことだった。
なんとか近くにあった服屋で適当な服を見繕い、エノラには例の特殊シートの上から簡単な羽織物と目立つ白髪を隠すための帽子を与える。
2人も防護服やら研究所の制服はとっとと捨てて、着替えた。
トラストルノで旧日本と呼ばれるこの研究島は、しかし研究者では無い一般市民も住んでおり、しかも彼等の誰1人として、そこが研究島だとか、地下空間に広大な施設があることを知らないらしかった。
しかも住む人々はトラストルノについてもあまりよく知らず、旧時代のある意味平和な生活を営んでいる。
「旧…じゃなくて、普通に"日本"として成り立ってんじゃん。」
アズは驚いてつぶやく。
「しかし、やはり人口はトラストルノより圧倒的に少ないな。都市部にほとんど人が集中している、と聞いたが関東ですらこんなに人が少ないとは…」
「んなことはどうでもいいわよ。どこで待ち合わせだっつったけ?シンジュク?どこよ。」
落ち合う予定の人物が指定してきた待ち合わせ場所は"新宿"。漢字を勉強しておいて良かった。
「めちゃくちゃいっぱい線が通ってるわね…ここから1番近い線で行くとなると…これか。でも見つからずに行けんのかしら、これ。」
「キッツイだろうが、うまく行くしかないな。」
乗り換え1回。海を見たり、ビルを見たり、途中人の降りなそうなそこそこ古めの駅を見たり…エノラは楽しそうに窓の外を見ている。
が、アズとシロは殺気立って景色どころではない。
注目の的…という程ではないが、若干周りの人から怪訝な目で見られている。
というのも、シロにしろ、アズにしろ、目つきがこわいのだ。2人ともTITUSの連中が居はしないか、と辺りを見る余り、ガンを飛ばしているかのようになっている。
「おい、そういえば金はどうなってる?」
「普通に通貨は円よ。それなりに持ってるからとりあえず数日はやっていける。」
「そうか…」
いくら綿密な計画を練ったからといって、不安は払拭できない。2人は何か起こりはしないかと気が気ではなかった。