思いを馳せて
「はい、はい…ではそのように。」
南地区の代理戦争組織、SKANDAとの交渉結果及び内容の報告を、女王本人へと伝えた。
久しぶりの電話、久しぶりの声。
返ってきた反応は「あら、そう。わかったわ。」というごく短いものだった。
労いの言葉や、はたまた引き止めるような言葉などは一切無かった。
他の構成員達に対しては常にそういった言葉を忘れないのだが…
ジャックは痛む胸と頭を奮って、もう一度グプタの元へと馳せ参じ、そして交渉成立の旨を告げた。
「それは良かった‼︎そうだ、ジャック、君は泊まっていくといい。疲れたろう。」
グプタはひどくご機嫌で、ニタニタと薄気味悪い笑いとも思えないような歪みを口元に浮かべて提案してくる。
ジャックとしては是非ともご遠慮したい。
「いえ…その…」
「ジャーック、ちょっとこっちへ来てくれないか。目がダメになってしまって、お前の成長がわからん。近くに、近くに来い。」
触れて顔形や背格好を確かめるつもりなのだろう。が、それも出来ればご遠慮したい…触れられたくないのだ。
しかし逆鱗に触れてしまうのは避けたい。
「はい。失礼します。」
ジャックがグプタの斜左前のあたりに膝をつくと、グプタの手がゆっくりジャックの髪を梳き、撫で、そして頬や鼻筋などまでなぞりだした。
「いやはや、すっかり青年になってしまった。大きくなったね。」
そりゃそうだ。こんなに近くで話すのは女王に連れられて来た幼少期以来だからな。
グプタのザラザラゴツゴツした手が気持ち悪い。吐き気がする。
するとまた突然、先程の申し出を繰り返した。
スルリと首元を撫ぜながら…
「疲れたろう?泊まっていきなさい。」
全てはあの日の自分が悪かった。あの少女にキスなんてするんじゃなかった…いつまでも母さんと一緒に居られるように、もっと努力すべきだった…
戦場になど立ちたくない。こいつに従うなんて最悪だ。でも…女王に認められたい。
ジャックは首元に気持ちの悪い手の感触と、分厚い爪の、うっすらと食い込むのを感じ、諦めたように頷いた。