異常者と異端者 5
「わかりません。僕には理解できない。」
「それで結構ですよ。時に…質問を続ける前に一つ、身体の不調などはありませんか?」
伏は唐突な質問に戸惑いつつ「…?特には」と答えた。
「そうですか、では質問を続けます。」
カチッ
伏はデュースの一挙手一投足に意識をぐっと集中させた。
「二つ目の質問は…そうそう、あなたが所属しているPEPE東校Sクラスについて、お聞きしたいんでした。」
これは…適当に嘘でもつくか。
伏は自分の記憶の書き換えを行う。イかれた頭ならではの特技。
普段の記憶の中で、みんなが使っている武器などを入れ替えていく。この時、伏本人はそちらを本当の記憶だと、本気で思っている。そこが常人との違いだ。
こうなると薬の類も意味を成さない。
これは真城でも出来ない芸当である。
「まずは首席の名影零さん。彼女に関しては日本刀を使っていたとの報告が既にあります。彼女の最も得意としているのは刀による接近戦ですか?」
カチッ
なーちゃんの得意な戦闘?それは…
「首席の得意とする戦闘は投擲ナイフや狙撃による援護です。指揮をとらないといけないのに、前線に飛び出すなんてありえないでしょう?日本刀を得意としているのはシヨンです。」
そう、いつもシヨンの刀捌きには圧倒させられる。
「…なるほど。では次席の、芦屋聖くんはどうでしょう?」
「聖くんはオールラウンダーです。その場にあるものを何でもうまく使います。でもなーちゃんのような遠距離からの支援は苦手…らしいです。」
デュースは伏の目をじっと覗き込む。嘘を言っている風ではない。ということは、ジャック達からの情報が嘘だった、ということになる。
しかし、こんなに食い違うものか?
「伏舞人くん、あなた自身の得意とするのはどういった戦闘です?」
すると伏は素でキョトンとして答える。
「僕は専らワイヤーを使った中距離戦闘派ですよ?」
「…そう、ですよね。」
別段、嘘を言っている風ではない。しかもSクラス全員を聞き終わった段階で、半分は情報が合っている。
ナイン……もといアレイ・ディモンドに関する情報も齟齬はなく、そしてその齟齬の無い解答と、齟齬のあった解答の間に、彼自身の変化は全く無かった。
ただやはり、彼があまりにもペラペラと答えてくれすぎる。という点が不自然なのだ。
命が惜しいから?痛い目には遭いたくないから?
それとも、さして彼にとってクラスメイトは大切でない?
とは言っても、三つ目の要求は易々と通してはもらえないのだろうな。
その前に少し確認しておくか…
「失礼。少しだけ席を外しますよ。」
デュースは伏を部屋に残して、廊下に出た。そしてそのまま二つ隣の部屋へ。
そこには大量の測定器が置かれていた。
「測定結果はどう?」
「緊張を示す数値は上下が見られますが、特に質問や要求に対する動揺などではないようですね…」
中にいた3名はいずれも20代半ば、見ようによってはデュースより年上に見えるが、全員がデュースの指示にテキパキと従い、そして敬語で返す。
それは畏怖や上下関係というよりも、もっと自然な関係のうえにあるような気がする。
「ここが上がっているのは?」
「ちょうどデュースの解答を聞き終えた直後ですね。」
「そう…違和感のある箇所もなし?」
「えぇ、特には…強いてあげるなら、カウントに対してなんら反応がないことですかね。」
「反応がない…。となると意識をシャットアウトしている可能性があるが、しかし質問にはきちんと答えている。」
「そうなんですよ。ですから、こういった音の圧迫に慣れているのかとも考えられますが。」
「あと少しだけこのまま1人にして、カウントはかけ続けてみよう。」
音の圧迫は人によっては短時間で発狂するような、拷問の一種だぞ?
なぜ無反応なんだ…。