異常者と異端者 4
「あ、質問させて…ください。」
カチッ
伏が言いなおすと、デュースは首を傾げ何を訂正したのか分からないという風にしながら「どうぞ」と質問の先を促した。
「デュース、さんは男…ですか?」
伏がそう問うと、デュースは相変わらずの無表情でしばし沈黙してから、指摘するように話し始めた。
「まずその質問は良くないですね。それはつまり、あなた方が私達について…少なくとも私については殆ど何も知らないですよ。と手の内を明かしているようなものです。」
言われてみれば…‼︎
伏は駆け引きの類があまり得意ではない。
名影のようにはいかない。でももう質問してしまったものは仕方ない。なんとしても答えは聞かなくては。
「まぁそうだとしても、質問してしまったものはもう戻せないんでいいんです。肝心の答えを教えてください。」
デュースはまたうーんとしばらく黙り込み、それから脚を組み、腕まで組んで話し始めた。その表情は先程までの無表情とは少し違って、どこか険しさがある。
「これはあくまで私の意見ですけど、男女だとか、年齢だとか、あるいは名前だとかは、本当は必要ではないのではないか。と思うんですよ。」
…どういうことだ?
「私が女だろうが男だろうが、それは私とこうして対峙した今、あなたにとっては別段重要なものでは無くなった。
もし仮に逃げ出してお仲間と合流した時に僕を探そうと思っているなら、性別を告げるより、僕個人の特徴を述べた方が早い。
僕はよく、歳も性別も分からないと言われる。仮にそんな奴を探そうとするのに特定の情報や概念は逆に邪魔だ。
…それに今はもう子供は試験管で作れる、若さはスクリーンやホロで手に入れられる、他人の人生すら奪うことが許されている。そんな中でそういったものは本当に必要ですか?
今現在、トラストルノにおいて個人を形成しているものは、その人自身が「俺は、俺という個体だ」と認識しているという事実だけでは?いやそもそも、個人という媒体さえ存在しているのかあやしい。
だから俺は性別も年齢も持っていません。名前は…まぁでも無いと確かにいささか不便なことは認め、今はデュースと名乗っています。俺の情報は以上です。それ以上もそれ以下も無く、君の今目の前にいる俺が、デュースだと認識している。」
なんか難しげな言葉によって有耶無耶にされた気がする。
でも一つ分かったことがある。
デュースが話すときに生じる違和感の正体…一人称や二人称が忙しなく変わっていくのだ。
安定感がない。
常に不安定。
「失礼、余計なことまでベラベラ喋りすぎましたね。私の性別?強いて言うなら無性別です。」
このトラストルノにおいて、"個人"の存在を否定的に考える人がいるなんて驚きだ。
僕にはデュースは理解できない。