懐かしき兄弟
戦場で死体からお宝を掠め取って生きていた頃、カルマ達のいた縄張りを仕切っていたのはビードル、通称ビットと呼ばれた少年だった。
恐らくカルマより年上で背も高く、黒髪でがたいも良い、まさに兄貴分といった感じの少年。ある程度大きくなっても、彼は血の繋がらない可愛い弟達のために進んで戦場に行き、食べ物を用意していた。
カルマがPEPEに行くと言った時も、「頑張れ」と背を押してくれたのだ。
「まさか、こんな所で会えるとはな。」
その兄貴分ビットが今、相変わらずの高身長と人の良さそうな屈託の無い笑顔で目の前に立っている。
会うのはもう何年ぶりだろう。
「元気か?」
「もちろんさ。すこぶる元気だよ。」
しかし、なぜここにビットが?
「路地裏の兄弟達はどうした?」
カルマが聞くと、ビットは表情を一気に曇らせた。
「SOUPの連中に大半が攫われた。俺らの兄弟だけじゃない…他の所からも一気に子供が減ったらしい。そんでなんとか逃れたやつや、途中で逃げだせたやつで生活していたんだが……」
「…?どうした。」
「薬を…打たれていたようなんだ。そいつらが発狂したり、パニックになって…なんとか捕まらずにすんでた奴らを…俺の留守に……」
そこでビットは唇を噛んだ。
カルマにも言わんとしていることが、なんとなく分かってしまった。そうであってほしくはないが…
「………殺しちまったんだ。」
なんてことだ…
せっかく助かったのに。兄弟同士なのに。
「でも俺らは発狂してようが、なんだろうが兄弟を捨て置くなんて出来なかった。そんな時に女王に出会ったんだ。」
そこまで言うと、今までポカンと2人のやり取りを聞いていたエイトが何か思い出したように口を挟んできた。
「もしかして‼︎あの女王の城に居た子供達って…⁉︎」
「あぁ、あの方が預かっていてくださったのだ。今回も大変な移動なのに、弟達も1人残らず連れて行って下さったし。」
てっきり女王が薬浸けにして飼ってるのかと思ってた…
そんな幽かなつぶやきが、しかしカルマは聞こえなかったことにした。
だが偶然とはあるものなのだな。
「で?この先どうする。」
そうだ。女王の所へ行くにしても、ここまで来てしまったなら北を通って行かねばならない。
そもそも、今たった4人でトラストルノをウロウロするのはちょっとリスクが大きすぎる感じはする。
「エイト、トランプの所へ行きたいか?」
「は?」
カルマの唐突な問いにエイトもセブンもビットも首をかしげる。
「質問の仕方を変えよう…
ここらで戦線離脱して、逃げないか?」