寮での平穏
寮はいつでも賑やかだ。
それはおそらくどこのクラスの寮でも同じで、特に夕飯時などは大概の生徒が食堂に集まるため一層騒がしくなる。
それはSクラスも同じで。
「今日は餃子を作りたいと思いまーす。」
ティトが言うと、伏以外の全員がささっとダイニングキッチンの方から離れる。
食堂とは言っても、実際はとてつもなく広いダイニング&オープンキッチンといった感じで、この寮そのものが1つの家のようになっている。その中で子供部屋や寝室、のように各自に個別の部屋が割り振られているのだ。
さすがにここの部屋に鍵はついているし、部屋の中にもバスルームやトイレなどがついてはいるが、ほとんど全員が大浴場を使っている。
ナギだけが自室の風呂を使っているようだが…
「ちょっと‼︎なんでみんな遠ざかるの?ちゃんと手伝ってもらうわよ‼︎ほら、聖くんどこ行くの⁉︎」
だからかもしれない。
まるで1つの家族かのようになっている。他のクラスと違って人数も少ないので本当の家族のような団欒の場が築かれるのだ。
「各自、30個は作ること‼︎」
「いや、そんな食わねぇよ⁉︎」
「いや大丈夫よ。なんてったって伏舞人くんがいますからね‼︎」
「いぇーい‼︎」
伏は見た目に反してよく食べる。
逆にクラス1の高身長、芦屋はあまり食べない。それから名影とアレイがかなり偏食、恩は最近では珍しいアレルギー持ち、と献立を考えるのが大変だ。
別に決まっているわけではないのだが、毎日献立をたてるティトは頭を悩ます。
午後の講義の最中はほとんど夕飯の献立しか考えていない。伏は食べる方で夕飯の献立を考えているが。
「かったるい……」
芦屋がそそくさと逃げようとするのを恩が、真城が隠れようとするのを名影が引き留め、全員で餃子作りを開始する。
餃子の形1つとっても個性が出る。
「うわー‼︎なーちゃんとナギるんの餃子めっちゃ綺麗‼︎」
「本当だー‼︎あ、しかもナギが作ったやつにうさぎがいる‼︎おいし…かわいい‼︎」
ティトと伏は興味津々で他の人のつくっているのを覗き込む。やはり1番綺麗なのは手先が器用な名影とナギだ。ナギ自身は作るのにはほぼ毎回参加するのに、いざ食べる時になるとスッと居なくなってしまう。
最初は呼んだりもしたのだが、本人があまり口をつけないので、みんな食べるのには誘わなくなった。
「作るのおっそ‼︎でもキッチリしてる‼︎」
真城のはまるで食品サンプルかのように完璧な形なのだが…遅い。几帳面すぎるのだ。
ロブ、恩、芦屋のは可もなく不可もなく、多少の形の違いや、途中めんどくさくなったのか端が折られていないものがあるが、ほぼほぼちゃんとした餃子だった。
「う…うん。まぁ、ね‼︎」
「んだよ‼︎いいよ‼︎下手なら下手って言えよ‼︎」
アレイのは餃子なのかしゅうまいなのか、はたまたそれ以外の何かなのか全体的に歪。
「おぉ‼︎シヨンちゃんのは独特な綴じ方されてる‼︎」
シヨンは家でいつもこうだったといいながら、餃子の端をくるりとひねり、キャンディーのようにする。
なかなかファンシーな餃子だ。
「そういうお前らのはどうなんだよ?」
そう聞くと、ティトは半分くらいまで餃子のつまったタッパーを見せた。
「まぁ…作業が早いな。これといって特別なところはなさそうだが。」
「うるさいわね‼︎」
ロブに指摘されティトは頬を膨らませる。
一向に見せてこない伏の分を芦屋が覗きこむと、
「え、いやいや…舞人、それデカすぎないか?」
「いいの‼︎大きい方が贅沢だもん‼︎」
子供か‼︎とつっこみたくなるほどに単純な理由によって巨大に作られた餃子は、どうやったのか一枚の皮になかなか上手く包まれている。が、巨大すぎる。
これは、もはや餃子なのだろうか。
「はい、じゃあ焼くわよ‼︎」
ティトと恩が中心になって餃子達を焼いていく。羽根つきもたまに作りつつ次々と手際よく焼かれる餃子を、長机の方では伏がまだかまだかと待ちわびている。
しかし時間がかかっている主な理由は、その伏本人が作り出した巨大餃子なのだ。
なんとか焼き上げ机に持って行き並べて、席に着く。
やはりナギは居なくなっていたが、ナギが作った分はもれなく全て伏のものになった。
みんなでの夕飯。平穏な日々。幸せな音は外の廊下まで響いていた。
ナギもその音や声は嫌いじゃない。
こんな自分でも、我儘を言っていいなら、彼らとは卒業までこんな楽しい日々を送らせてほしい。