らしからぬ行動 2
「芦屋校長は毎月…その……"亜細亜座"に行かれてますよね?」
それが?
そう聞けたらどれだけ良いだろう。しかし実際SOUPやPEPEの重役が"亜細亜座"のような見世物小屋に出向くなどそうあることではないし、まして体裁を重んじる芦屋の家の者ではありえないようなことだろう。
極め付けは、最近"亜細亜座"について流れているよくない噂。
「亜細亜座は武装集団の隠れ蓑だとか…悪い噂も耳にしています。それが事実か否かはさて置き、少なくともPEPEの校長が私事として出向くには少し…奇妙だな、と思いまして。」
名影零という少女は頭がキレる。もしかしたら、過去についても調べ上げたのだろうか…?
「私、実は旧東アジアの文化に興味があった関係で亜細亜座についても少し調べたことがあったんです…それで、その…これは完全な私の想像、いえ妄想ですが…」
今日の名影はどうも歯切れが悪い。
芦屋は発言を躊躇う名影に先を続けるようにと促す。こうなったらどんな戯言でも聞いてやろう。それがもしかしたら…真実かもしれないのだから。
「亜細亜座は10年前、たった8人の芸人達によって創設されました。創設当時から一部の…物好き、達からは人気があり、そこから紆余曲折を得て10年経った現在、莫大な人気を誇る大衆向娯楽集団として東地区を中心に活動しています。」
知ってる。
「ですが、これ程の人気がありながら、現在に至るまでの亜細亜座の来歴について正しく知るものは少ない…というよりおそらくは現亜細亜座の実質トップ"鈴"という人しか知らないのでしょう。」
だろうな。
「実は…その人に話を聞きに行こうと思ったこともあったのですが、見事に私の行く日は全て彼女の出ていない時でして…会うのは叶いませんでした。写真も無いとのことで、私はその人のことを名前しか知らないのですが…」
わざとだろう。客席にいるのを見つけ次第、演目を変えさせていた可能性もある。
「それはともかくとして…亜細亜座の創設時にいた8人のうち、現在残っているのは彼女1人です。残り7人がどこに行ったのか…気になってしまいまして。」
「君は良くも悪くも好奇心旺盛だね。」
それが命取りにならなければいいが…
「すみません…ですが調べましたところ、うち2人がSOUPの関係者によって捕らえられていたことがわかりました。しかも2人はその後生死不明、所在が分かっていません。」
あぁ、全部もみ消されたからね。
「でも、その2人のうち片方の、男性の方は、亜細亜座の近くで見たという古くからの客がいたんです。」
とんだ偶然があったもんだ。
「確信はありませんが、校長が亜細亜座に密かに訪れていらっしゃる時期と、その人物が亜細亜座近くで目撃された時期は被ります。さらに、もう片方、女性の方は亜細亜座を去る際妊娠していたらしいという噂がありますが…もし仮に産んでいたとしたなら、ちょうど、前首席の芦屋類さんと年齢が近く無いでしょうか?」
「つまり?」
芦屋校長は諦めたように名影に先を促した。
「あなたは…亜細亜座にいたことがあるんじゃないですか?それも創設時に。そして…亜細亜座が武装集団に関わっている旨も知っている。その武装集団がおそらくは……
" "であることも。」