らしい仕事
こんなに"Sクラスらしい"仕事は久しぶりだ。最近は戦闘に、交渉に…と明らかに学生の本分を大幅に逸脱した仕事が多かったからな。
芦屋は割り当てられた学生名簿のチェックをしながら、ふと思った。
舞人を助けに行けないもどかしさはやはりあるのだが、それでも昨日や一昨日と比べれば少し落ち着き、冷静さを取り戻せている。
「HクラスとIクラスはまだ終わってないか?」
「あぁ…いまAから順にやっているからな。」
「よし、じゃあ俺は下のクラスから始めよう。」
送迎用の車両の手配を終えた恩とロブが手伝いに来てくれた。
Aクラスから成績順にTクラスまである。下のクラスになればなるほど必然的に12歳から15歳くらいまでの年少の人数が増えていく。特にTクラスは1年間PEPEに慣れるために新入生が入るクラスなだけに数名を除いて12歳しかいない。
「名簿を見てると、やっぱり舞人とか聖とかはすごいよなぁ…同年代はTクラスとかから少しずつ上に上がってくるのが定石なのに、いきなりSクラスっていうトップからスタートだもんなぁ〜。」
「別に……」
「あ、照れてる?ふふふ、僕らなんかはさ、ティトも含めて途中組だからね。」
ロブと恩は明るく話しを振ってくれる。2人の優しさがありがたい。
「そんなこと言ったら、名影だって途中組でしょうが。」
「いやいや、首席は別だろ‼︎彼女の場合はPEPE自体に14歳で入ってきてそのままSクラスだから途中組ではないよ。」
「本当に突然来たよねぇ。」
全員が懐かしいあの日、を思い出す。
名影が来た日、みんなは歓迎の気持ちと同時に不審さを少なからず持ち合わせていた。
なにせ前首席が亡くなって、ほんのわずかの間に突然現れたのだから。別にそれまでPEPEに所属していたわけでもなし。得体が知れない、というのが的確な表現かもしれない。
「それがいまじゃあ僕ら全幅の信頼を置いちゃってるんだもんねー。」
恩がニコニコしながら思いを馳せると、ロブも力強く頷いた。
しかし芦屋だけはなんとも言えない表情をしている。確かに、信頼はしている。首席としても本当に憧れるくらい仕事を完璧にこなしているし、1人の人間としての憧れもある。
がなんとなく、まだ自分達との間に壁…というか距離があるように芦屋は感じていた。
今回の交渉の場を見て、その思いは一段強くなっていた。