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トラストルノ  作者: なさぎしょう
盤上駒
152/296

交渉 PEPE×紅楼6



「さて、我々の側から君らに要求したいことは2点。1点はPEPEに通う紅楼(われわれ)の構成員の子供達の一時的帰宅処置をして欲しい。…こうも世の中が不穏となると、なるほど世界一安全(・・・・・)なPEPEといえど、安心出来ないのだ。」


名影は頭の中で東校(イーストヤード)にいる紅楼関係者の生徒の人数を瞬時に割り出すと、不自然にならないよう帰宅させる算段までつけた上で返事をする。


「おまかせください。それならば戻り次第すぐに行動を起こし、明後日までには全員をご自宅もしくはこちらまでお連れ出来るでしょうから。」


「自宅で構わん。子供達も本部に連れてこられては(いささ)か不安というものだろうからな。」


「承知いたしました。」


名影は力強く頷く。

後ろの真城も、この要求には無理が無いと判断したようで何も言ってこない。


「まぁ、この点は君ならば快く了承したうえで、完璧にこなしてくれるだろうとも思っている。問題はもう1つの方だ。」


そういうと、劉清居は名影の背後に控える真城をチラリと見てから名影に問いかけた。


「そこにいる彼は君にとって最も信頼できる相手かね?そして…戦闘において強かであるといえるかね?」


「……?えぇ、私が最も信頼している、格好つけて言わせていただけば"右腕"というやつですよ。戦闘も非常に長けている。」


名影はいまいち質問の意図が汲み取れないながらも答える。


「そうか、それならこれは名影首席だけでなく後ろの君にも要求している依頼ととってほしい。」


「わかった。」


真城は名影に"右腕"と称されたのがよほど嬉しかったのか、いささか言葉の端に笑みを滲ませながら答えた。






「君らに……戦場に出てほしいのだ。」


これは…さすがに名影も予想外の要求だった。

こんな戦闘経験のない子供(ガキ)をわざわざ取引条件の一つとしてまで戦場に出したい理由が分からない。


「えっと…それはその…なぜ?」


名影は自分でも間抜けな聞き方だと分かっていながらも、それ以外に聞き方も思い浮かばず聞き返す。


「いや、そうなるだろうとも。すまないな。言葉足らずであった。」


劉清居は改めて居住まいを正し話し始めた。


「この所不穏な空気が漂っているのは何もSOUP内部や、過激派武闘集団の件に限った話では無い。我々大小様々なカンパニーの間にも不穏な空気がある。トラストルノ外部からの依頼無くして、東西南北の間で大規模戦争が、勃発する可能性が出てきているのだ。」


それは初耳だった。

名影も真城も口を挟むことなく話を聞き続ける。


「それに際して、いま人員の確保は普段以上に力を費やさなければならなくなっている。…個人主義のトラストルノにおいて、個人は所属する組織を選択する権利も、言い方は悪いが乗り換える権利も持ち合わせている。いまうちは西と互角の最強カンパニーの名を持ってしてようやく現状維持出来ているような状態だ。」


名影はそこまで聞いても自分に戦場に出てほしい理由がいまいち分からない。たかだか自分1人増えたくらいでは大した戦力になるまえ。


「そこで、君だ、名影首席。君の才能が必要となる。」


「あの…なにか、私のなにかの才能を買ってくださっているのはありがたいのですが、いまお聞かせくださった諸問題について、私ごときに解決できる問題があるように思えないのですが?」


真城もいくら名影を過大評価しているとはいえ、今話された問題は大きすぎて、名影1人の力ではどうしようも無いように思えた。

しかし劉清居は違うようだった。


「いや、君ならば、君でなければ出来ないことがある。戦闘のセンスだけでない。我々が借りたいのは……君のそのカリスマ性だ。」






なるほど。

真城はそれを聞いて納得した。が、当の名影は全く納得していないようだった。


カリスマ性?自分にそんなものがあるとは到底思えない。いま目の前にいるこの人をもってして従わない人々が、こんなひよっこのなんだかわからん子供の言うことなんぞに従うか?


「君は自分なんて大した事ないとでもおもっているのだろうが…」


名影は考えを見透かされて一瞬顔をしかめる。


「しかし君のカリスマ性はまごう事なく本物だ。そして強大なものでもある。戦場に出て、なにも前線で戦えというのではない。護衛としてそこの彼も連れて行ってもらって構わない。ただ…率いて欲しいのだ。大衆の力を‼︎」


劉清居は夢幻でも見ているのではないか。名影は冷静にそう思っていた。

しかし、真城がボソリと名影に対して呟いた言葉に、名影は再度驚かさせられる。


「零は、本当にすごいと思う。率いる力はずば抜けている。西校の首席を見ていて思った。普通の人間では怖気づいてしまうところも怯まず…そして芦屋次席と違って、適材適所、ってのをわかってる。」


さりげなく芦屋を批判してきたことは無視して、真城のような身近なものからのそういった評価は嬉しい。

が、本当に自分にそんな才があるだろうか?


「なんなら一つ目の依頼を完遂したのちに答えを出してもらうのでも構わない。が、こちらとしては是非ともお願いしたい。」


もちろん、トランプにこのまま好き勝手させるわけにはいかない。となれば他に選択肢もないように思われる。が自分にそこまでの事ができるだろうか…?

名影は真城の方を見る。

真城は全く迷いも曇りもない眼差しで名影を見返した。名影の中で、何かが吹っ切れた。






「いえ、そこまでお待ちいただく必要はございません。是非、そちらの条件で今回の取引成立とさせてください。」




さぁ、トランプとの勝負もここからが本番だ。絶対に逃さない。


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