戦闘準備
「シンク‼︎お前さんはケイトとジェスターを連れていけ‼︎」
「了解」
薄暗くなった倉庫のようなところで男達の話し声が、奇妙に様々に響きあう。
「相棒と死神のお守りは任せたぞ。」
お守り、だなんて笑わせる。
まぁしかし、手綱は離すまい。
「化け物どもの腹の中のもん抉り出してやれ‼︎」
「向こうの日本人はジェスターの知り合いなんだろう?」
「日系人…だがな。あぁ知り合いだと聞いている。」
「どっちでもいいことさ。もはや個々の集団的括りは曖昧かつ無意味だ。そうだろう?」
デカ腹がよく喋る。
「つまり、俺が誰を軽蔑しようが、どう見ていようが、もはやそれは個人の自由に他ならないわけだ。」
この男の言っていることは俺らの目指すものとは少し…いや、かなりズレている。が、もはやそんなことはどうでもいい。些細なことに目を向けている暇などない。
「ケイト‼︎下準備だ。」
鋭い目つきのアジア系の男は、隅の方でうずくまり旧式端末に指を滑らせる白髪の男に声をかける。
髪だけでなく、肌もとんでもなく白く、目はうっすらと赤みがかった黄金町で、美形、を通り越して一抹の神々しささえ覚える。見開かれた黄金色の瞳はなんでも見通してしまいそうに見える。
しかしアジア系の男に手を借り立ち上がると、ニカッと笑う。破顔した顔は少し幼く見えた。
「檻の中の可哀想な少年を助けに行くのかい?」
歩き出したアジア系の男の後を白い男は意気揚々とついていく。
「いや、俺らの仕事はヘンゼルとグレーテルの保護じゃない。人造人間狩りさ。」
「ふーん、それじゃあさしずめ僕らは賞金稼ぎかな?」
「あぁ、だが狩るのは人造人間か写しかまだ分かっていない。もうじき調べがつくはずだ。」
軍人然とした風貌の男と身軽な風貌の白い男はなんともちぐはぐに見える。
「写しだとすると賞金稼ぎじゃなくなるな…なんだったか…」
白い男は首を傾げ、眉間に指を置く。
「そういえば、俺らの他に今回はジェスターが一緒だ。」
「え?死神が?」
そう言うと、男は白い男を睨みつける。
「冗談さ。まぁでもジェスターが一緒なら心強い。むしろ、僕らなんかは必要無いんじゃないか?彼女1人でも不足は無かろうよ。」
「万が一の保険だろう。なにせ今回狙う獲物はあの"巨大な収容所"にいるからな。」
「そうかい。」
白い男はつまらなそうに呟くと、懐からスコープを取り出し目にあてがう。
「どうやら出番は無し、退屈な狩りになりそうだ。」
2人の進む先にはとある劇場の裏手に通じる地下通路がある。
通路の終わりに近づくにつれ、劇場内の案内役の声がはっきり聞こえてくるようになった。
「さぁさぁ‼︎皆様今宵はようこそお越しくださいました‼︎」
「サーカス、サンバ、マジックに歌‼︎さらには旧国家の様々な芸能もお見せするよ‼︎」
「It's a show time!!(ショータイムの始まりだ)」