交渉 PEPE×紅楼4
名影の発言に、全員が少なからず驚かされた。
「君は…SOUPに親御さんがいらっしゃらなかったかね?」
初老の幹部がそう問うと、名影は肩を竦めてみせる。芦屋はそれを横目で見て、改めて名影と自分の実力差を感じた。
名影の中でスイッチが入ったのだろう。今は緊張も冷静になるための程よいものでしかないはずだ。
目に、いつも以上の強い光がある。
「このトラストルノで、親が誰であるかなんてことはほんの些細なことでしょう。大事なのは私という個人であり、私という個人の属する集団です。」
それから名影は苦笑しつつ続けた。
「とは言っても私は父を尊敬しています。その父が、SOUPの限界について愚痴を漏らしたことは一度や二度ではない。」
名影は変に考え込むような間を作らない。素直な気持ちを、素直なまま表に出していく。
「どんな組織だって良い点だけでないのは承知です。紅楼だって。……しかし、こと今回の問題に関しては、SOUPは紅楼に劣る。また、その付属組織となってしまっているPEPEも身動きがとりづらい。」
劉清居を始めとした、威風堂々たる面々を前にして、それでも怖気付くことなく話を進める。
他の3人も名影につられ、少しずつ落ち着きと強い意志を取り戻しつつあった。
「正直に申します。私は、今ここに1人の…名影零個人として取引のお話に伺いました。PEPEの代表ではありません。ただ私という個人の中に、PEPEのSクラス首席という一面も残念ながら含まれている、というだけです。」
「ふむ……」
幹部達がむしろ名影の圧力に圧されはじめている。劉清居と王瑤妃だけが面白い。とでもいいたげな表情で名影を見ていた。
「私個人として、お願いしたい。ご助力願えませんでしょうか?」
場が静まり返る。
が、決して嫌な静寂ではない。むしろ当たりくじを待つ時のあの高揚を含んだ静寂に近い。
全員の目が、劉清居の荘厳ともとれる顔に、重く響くその声に、集中された。
劉清居の口が、ゆっくりと躊躇いを含むかのように開かれた。