交渉 トランプ×SKANDA
ジャックは今回ばかりは本当に憂鬱で、いくら女王の指示とは言え、今すぐ放棄して帰りたかった。
今からならこのいつの時代のものか分からないようなボロ電車を降りて帰れるかもしれない、なんて考える。
座っているだけなのに脂汗が身体中を舐め落ちていくのが分かる。
確かに、少年の捕獲には殆ど役に立っていなかったと言えるかもしれない。デュースが結局捕物を行い、少年の保護まで全て取り計らってくれた。
それからジェスター…今回に限らず彼女の助けはいつもとても良いタイミングで入るし、助かる。
だから出来れば今回の"交渉"にも一緒についてきて欲しかった…
年長者達の話し合いの結果、今後トランプ単独ではとてもやっていけない。自衛すら出来るか危うい。ということになったらしく、代理戦争組織に協力を依頼することになった。
となると、まぁ東西南北の四大カンパニーに頼むのが一番良いのだが、まず東と西は論外だ。
幹部の子供なんかがPEPEにいるのなら、すでに散々な噂を親に流されている可能性はある。し、西はともかく東は今回拉致してきたのが東の紅楼幹部補佐の息子らしいから絶対に無理だ。
だいたい東の生徒を仕切っていた子は相当なキレ者らしいから、もう手を回されている可能性が高い。
となると南のSKANDAか北のКировに援助を求めることとなるが、いかんせんトランプは北にパイプがない。
まぁもっともジャックとしては北に派遣されるよりは南の方がよかったとはおもっているが…
南地区最大の代理戦争組織であるSKANDAは四大カンパニーの中では最大規模を誇る。が、戦闘力では東西に劣る上に、情報戦では北に勝てない。
そんな彼らにも得意とするものがある。
商いだ。
東西南北の中でもっともよく物や人が動き、活気があるのが南地区だった。
そんな中で勢力を伸ばしたSKANDAも当然、商売上手で、万が一戦争がない期間も、他のカンパニーのような一旦の衰弱や、下級構成員内での餓死者なども極めて少ない。
しかし、後ろ盾とするのにSKANDAでは不足ではないか?
ジャックは一人、いくつもの不安を抱きながら進んでいく。
『ねぇねぇ‼︎見て‼︎お母さん‼︎』
最近…よく昔の夢を見る。
なんだか走馬灯を見ているようで哀しくなってくる。夢の中の笑顔の自分と、そんな自分を両手を広げ抱き締めてくれる優しくて美しい母。
…そしてそれをただただ羨望の眼差しで見る自分と
自分の背後でこちらをちらりとも見てくれない、相変わらず美しい母の背。
今日早めに終わったら、何か土産でも買って、またテンから渡してもらおう。
自分からの土産だと受け取ってもらえないのではないかと思い、いつも土産は理由をつけてテンに渡してもらっている。
別に自分からだと知らなくて良い。
でも、だからこそ、一度でいいから、もう一度だけでいいから………
……俺 (僕) を見て。
泡沫の夢は、暑い南の風にまかれ消えていった。