交渉 PEPE×紅楼2
お、重いな……
緻細な彫り物が施された重厚な扉。それだけではなく、その内側から流れ出てくる何かもきっと相まって…とにかく空気が重い。
流れ出てきているのは威圧感なのか、それとももっと別の何かなのか、わからないが、とにかく空気が重いのだ。
「………ふぅ。」
さすがの名影も、緊張をほぐすために軽く深呼吸なんてしてみる。
「まぁそんなに力まないで‼︎さ、開けるわよ?」
力まないは無理だが、テンパってしまうのもいけないのは分かっている。冷静に、努めて冷静に…
「お客様が入られます。」
王瑤妃は声を掛けると、重そうな扉を両側へ引き開ける。
すごい力だな…
全員が一瞬そちらに気を取られたが、扉が開いた瞬間、見えない"何か"に思い切り身体を押された。気圧されだけでなく、実際に身体を押され、纏わり付かれたような感覚。
ゾワッと鳥肌がたち、よろめきそうになる。
それをすんでのところでなんとか持ちこたえ、部屋の中へ足を踏み入れた。
「うむ…まぁなにがともあれ疲れただろう。そこに、その席のあたりに座りたまえ。」
いや、立ったままのほうがいい。
芦屋や恩は心中でそう叫んだが、名影は「失礼します。」と早々に着席し出した。
そうなると続くしかない。
恩以外の3人は、"八人衆"の幹部全員を見るのが始めてだが…それ以上に、劉清居がその場にいることに驚きを隠せない。
圧倒的な存在感。それでいて表情からは何も読み取ることができない。芦屋と恩は冷や汗が止まらないし、名影も表はなんてことないように振舞ってはいるが、明らかに普段より呼吸が速くなっていた。
「まぁ緊張するな…というのも酷だろうが、そう気張らんでいい。何があったのか、そして我々に何を要求したいのか、それを話してほしい。その上で我々の方からも何点か提案していきたいと思うが…どうかね?お嬢さん。」
「構いません。貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます。」
「いやなに、そんなに硬くなるこたァない。君は確か、SOUPにいる名影の娘だったか?」
名影はそれに「えぇ」と務めて平然と答えた。臆さず、常に冷静に…
「ふん…それで君が確かあれだ…あれだろう?PEPEの東の校長の息子だろう?」
口調に皮肉めいた響きが感ぜられる。
「…っはい。」
芦屋はムッとしていたが、緊張のしすぎで口が乾ききっていたために、掠れた声が喉から出てきてしまった。
「で、君は、聞くまでもないな。お父さんには日頃口ではとても言い切れんほど世話になっている。今日は別件で外しているのが残念だ。」
「いえそんな、こちらこそ親子共々お世話になっております。」
恩はさすがの対応である。
「で、君は?」
そして最後は当然真城に順番が回ってくる。真城だけが完全なアウェイだ。が、どうやら4人中で真城が一番緊張していないらしい。
「真城。先に言っときますけど、俺は一般の出なんで、SOUPにもカンパニーにも知り合いとかはいませんから。」
「ふむ、そうか。」
真城の横柄ともとれる態度に3人は内心ビクビクしていたが、劉清居はむしろ楽しげに笑ってすました。
「とりあえず、事の次第を端的にはなしてもらえるかな?」
名影は「はい」というと、事の次第を極力短く的確にまとめながら話し出した。