誤算3
思っていたよりも早く"レベルE"を研究室外に出そうとするものが現れ、そしてその人物はあまりにも早くTITUSの要塞を破ってしまったらしい…。
「芦屋校長、生徒達が戻ってきました。」
すでに名影からの連絡で生徒の1人、伏舞人が行方不明になってしまったことは聞いている。そして察するに聖はさぞ打ちひしがれていることだろう、とも思う。
しかし、着き次第2人には話をしなければならない。
もっと最悪な事態について…
「失礼します。2人を連れてまいりました。」
「……どうぞ。」
今日も今日とて担任ではなく、副担任の神代輪廻が名影達を連れてきた。
芦屋聖は顔色も優れず、どこか落ち着きがない。一方の名影零は何がそうさせるのか、瞳に強い光を携えていて、重く落ち着いた雰囲気を纏っている。
「…残念ながら東西協力体制でもってしても、奪還は成せず…そしてさらにもう1人生徒が行方不明になった。」
決して責めているわけでもなし、ただ事実の確認をしているだけだ。
「はい。」
「…っはい。」
それなのに、芦屋の方はなんだか追い詰められたかのように声を震わせる。
「そう…そしてさらに悪いことに、このタイミングで、研究機関TITUSの施設から"レベルE"が逃走したとの連絡が入った。いまはまだどこに居るのか、どうやって逃げ出したのか、何1つ分かっていない。」
「それは…トランプとの関連があると思われますか?」
「無い、とは言い切れない。ここに来てあちこちで派手に動いていたのも、陽動であった可能性を捨てきれないでいる。」
「彼等の目的も何も、全く分かっていないんですよね?」
名影の探るような眼に、校長も申し訳なさそうにしつつ、「そうだ」と言った。
この若い校長もまた、芦屋と同じようにいらぬ"責任"に押しつぶされそうになっている。さすが親子。
名影はこれ以上、校長に何かを言うことが躊躇われたが、一応はPEPEの責任者だ、意見も彼を通すべきだろう。と考え直し、口を開いた。
「SOUPやPEPEは確かに最先端の軍備持ち、個人集合体であるところのトラストルノを、その体系を極力崩すことなく支える巨大組織。という役割を見事に果たしているとは思います。」
そこで名影はゆっくり息を吐く。
「しかしながら、最近は"統治"している。ともとれる状態にあると言えるのではないでしょうか?支えるのではなく、統治するようになると、統治される側の内実などがよく見えなくなりがちです。現に、SOUPは情報収集という点において、今かなり後手に回っている。」
「うん。正論すぎて何も言えないよ。」
校長も芦屋もただただ同意することしかできない。
「私は、今回目標の立て方を見誤りました。"奪還すること"ではなく"搾取すること"もしくは"排除すること"を目的にするべきだった。」
名影も少なからず今回の任に関しては責任を感じている。だからこそ、ここは大きく出るべき時かもしれない。
「トランプを潰しにかかりましょう。裏で彼等が糸を引いているにしろ、いないにしろ、トランプの起こす暴動と"レベルE"の逃走の両方を追うのは効率が悪い。だからトランプの方はPEPEで対処してしまえばいい。」
「今回だって無理だったのに…?」
芦屋が怪訝そうに言う。
「そう、だから協力を求めるのよ。」
「誰に?」
そう聞かれて名影はニヤッとしてみせた。
「そりゃ…代理戦争組織でしょう。」