誤算2
「次の扉で屋外に出る。そうしたら最大の難所だから。」
「分かった。」
アズは本当にここの地図を全て頭に叩き込んできたらしく、なんの特徴もない白い廊下であるにも関わらず、ズンズンと迷いなく進み、次の状況まで把握している。
「エノラ、大丈夫か?」
シロが気遣って聞くと、エノラはコクコクと盛大に頷く。
3人はアズの予習のおかげで、ここまで誰にも鉢合わずに来ている…これなら…
ビッーーーー…‼︎ビッーーーーッ
突如、けたたましく警報音が鳴り響く。
「もう嗅ぎつけられたか⁉︎」
「違う、これは多分陽動の方‼︎」
3人には協力者が数名いる。そのうちの1人はあの2代目ディモンド博士の一番弟子だったイド・グレーザーという男性だ。
その男性が1つの小窓の前で立って待っていた。
決して華があるわけではないが、落ち着いた柔和な印象の男性で、長身に白衣がよく似合っている。
「あぁ、本当に連れて来てくれたんだね。はじめまして、エノーラ。そしてこれで会うのは最後だろうが…私はイドという。君が外の世界を知った時、ぜひ私の名前も記憶の片隅でいい、覚えていてほしい。」
「…い…イド?」
グレーザー博士の挨拶を聞いて、エノラは首をかしげながらも博士の名前を呼ぶ。イントネーションが奇妙に上下したが、博士はエノラのことを愛おしげに見つめだ。
「さて、先を急ごう。ここから出たら外だ、しかしそれはもちろんまがいものの"外"であるから…そこからパイプや蔦階段を上手く登ってさらに上、空にその身を持っていかなくてはならない。」
そう、TITUSの建物は二重構造なのだ。
広大な地下空間にまるで魔法でも使ったかのようにリアルな曇り空が描かれている。いつだってTITUSは曇りだ。雨も降らないが、晴れることもない。
その地下空間の中にさらに、地中海沿いの建物群を思わせる建造物が並ぶ。それが2つ目の建物になるわけだ。
グレーザー博士が小窓の角の部分にある突起を上手く外すと、窓の周り部分まで大きく壁が外れ、まさしく扉のようになった。
そこから3人は1つ目の屋外へ出る。
研究室などの換気扇のせいで、実際はまだ完全に外ではないはずなのに、生暖かい風がまとわりつく。
「勇敢なる若人達よ‼︎幸あれ‼︎」
グレーザー博士の言葉を背に受けつつ、3人は薄暗い空の下へと降り立った。
「安心、安全が聞いて呆れる‼︎これは一大事なんてレベルじゃない…滅亡だ‼︎死だ‼︎」
ようやく監視員が映像の異常に気がつき、何名かの研究員とともに"E"の部屋へ訪れた時には、もはやそこはもぬけの殻であった。
研究員の1人、初老の男性は頭を抱え、そしてふと顔を上げたかと思うと、両手を握り、神に祈りを捧げる。
こんなことがあってはならないのだ。
あの子供は…まだ使ってはならない…