誤算
迎えの檻車風無人自動車を見て、名影はSOUPに向かう前のことを思い出していた。
護送車に乗せられるようで気乗りは全くしないが、ずっとここにいるわけにもいかないのだから仕方がない。
「お世話になりました。」
「お邪魔しました。」
各々、ユキさんにお礼をいいながら車に乗り込む。ユキさんはそれをニコニコしながら見送る。
名影も礼を言い車に乗り込もうとした。
その時…なんともいえない不気味な視線を感じ、振り返った。ユキさん…違う、もっと上だ、二階の、あの窓…
「どうしたの?」
そういえば魁斗さんと最初話している時に連れがいるようなことを言っていたっけ?
「いえ、なんでも…ありがとうございました。」
名影は突き刺さるような視線を背に感じながら、車に乗り込んだ。ドアが閉まり、車が発進するのを見送るとユキさんはするりと家の中へ消えていった。
「聖くん、心配なのはみんな同じよ‼︎でも今は指示に従いましょう。早く乗って‼︎」
どうしても、乗ってしまったら、もう会えないような恐ろしい気持ちになって、車に乗るのを躊躇ってしまう。
「おい‼︎早くしろ‼︎」
ついに真城がキレて、芦屋の首根っこを掴み、ものすごい力と勢いで車に放り上げた。
芦屋はそれでも抵抗も怒りも見せずにふらりと立ち上がり、座席に力なく座る。そこでティトが電子盤を操作し護送車のような無人自動車は動き出した。
とりあえずは、PEPEに向かわなくては…
「トラストルノ内でかつてないほど大きなうねりが起きている。」
手動運転車を運転しながら、デュースが言った。
灰を被ったような淀んだ髪色と、あまりにも白過ぎて作り物のような肌、重みのある灰色のまつ毛、彼を構成する全てが一個一個のパーツとしては洗練され整ったもののはずなのに、それが寄り集まると、不自然さと不気味さを感じる。
デュースはそういう容姿を持った人だ。
「我々にも大きな動きがあった…その旨については一旦休憩地に着いてから詳しく話そうと思う。」
まるで、カンペでも見て読んでいるのかと思うほど、その言葉に感情はない。無論、表情も無表情からピクリとも動かない。
ジェスターの方がまだ人間らしい。
「なんか…空気が死んでる…」
テンがジャックにこそっと耳打ちする。
ジャックも頷いて、前に座る2人を見た。
ジェスターとデュースは付き合っているらしい。
そんな根も葉もない噂がトランプ準構成員の間で流されたのは、2人の雰囲気の近いこともあるのだろう。なんとなく2人共、この世らしからぬ感じがある。
実際には別に付き合ってなどいなかったが、2人から感じる独特の……無機質感というのだろうか、それは今現在、2人の後ろの席にいても痛感する。