交錯
一度戻れ…そう名影から連絡が入った。
冷静に考えれば、その判断が正しいことは分かる。わかっている。でも…舞人はどこにいった?
気になるのはそのことだけではない。
先程から父から持たされた緊急事態用端末が何度も振動している。
"何か"がSOUPもしくはその関連機関で起こっているということだ。しかし、SOUP本部に武装集団が襲ってきた時ですら振動しなかったものが、なぜここにきて?
そんなにまずい事態が起こっているのか?
それなら尚更、舞人を早急に見つけ出さなくては‼︎
気ばかりが急く。
PEPEからの迎えを待つ間、落胆と安堵の入り混じった表情で各々が話を交える。
しかし、名影と匿ってくれている家主ーユキさんだけは、窓辺で2人で小声で言葉を交えつつも、カーテンの隙間からチラチラと外を確認している。
「こんなことってB地区でよくあるんですか?」
「いいや…おかしいよね。」
あちらこちらで、不自然な火災が発生し、火柱が立っているのがここから見るだけで4本は確認できる。
B地区には消防機関があるはずだから、事態の鎮静は普通の場所よりも早いのだろうが…それでもこれだけ同時多発されてはてんてこ舞いなのではなかろうか。
「いわゆる…テロ行為ですかね?」
「どうだろうな。それにしては脅威的ではないよね。女王様の家の方は無事なようだけど…本当ならあの辺がより金持ちの方々が多いから狙い目だと思うんだけど…」
考えなしなのだろうか…?
何が起こっている⁉︎
「なかなか火がおさまらないみたいだねー。」
カルマが言うと、同じようにカーテンの隙間から串団子のように顔を覗かせて見ていた2人も頷く。
しばらく気を紛らわせがてら、趣味や好きな食べ物の話で盛り上がり、3人はすっかり仲良くなっていた。…が、仲良くなったから気が休まるわけでも無ければ、不安が解消される訳でもない。
「そもそもさ、金があるなら、1番手っ取り早いのは家をもぬけの殻にしてしまうことだよね。いくら戦闘慣れしているからって、東校の首席とか来ちゃったら無傷じゃすまないだろうしさ。」
カルマが言うと、エイトははっとして
「だから俺らホテルに泊まってこいって言われたのか⁉︎いやでも…そうなると俺ら行く場所ないぞ…?」
「迎えは来るんじゃない?その前にはこの手錠もっかい付けないとね。」
「あぁ…」
手錠を取ってみたところで、カルマは全く逃げようとしない。むしろ今、この2人と友達みたいなことをしているのが楽しくて仕方がなく、帰る気が薄れてきていた。
もしかしてハナからそういう作戦だろうか?
まんまと策略にはまってしまっているのかもしれない。
まぁでも、それならそれでいいや。
「ねぇ、東校の首席はあの…ユキさん?と何を話しているのかしら?」
「さぁ?窓の外をたまに見ているね。」
アリスとリドウィンは2人を盗み見つつ、考察を巡らす。
「なんか…良くないことが立て続けに起こっていて嫌になっちゃうわね…カルマも…見つからないし…」
だんだんと小さく消えいりそうになる声に、リドウィンはあえて快活な口調で答えた。
「悪いことの後には、沢山の善いことが待っているさ‼︎」
不安なのはみんなが同じだ。
だからこそ、ただ沈んでいくのではなくて、明るく前向きに…これは誰の言葉だったか…