不穏なティータイム
「建物内には生徒以外の人間の姿は見られませんでした‼︎また手掛かりとなりそうなものも特には‼︎」
「わかった。悪いけどこのまましばらくここは現状維持しておいてもらえる?」
「はっ‼︎」
快人は部下の人達にテキパキと指示をすると、名影達とフィリップ達全員を近くの赤い屋根の家に連れていく。
インターホンを押すと、中から黒スーツに青ネクタイの、透き通るような肌の青年がでてきた。快人とは違うタイプの美青年だ。
美青年の知り合いは美青年…類は友を呼ぶ、とはこういうことだろうか?
「たまたま近くで仕事があって良かったよ。どうぞ、入って。」
「ユキくん、急にごめんね。」
「全然‼︎」
「いつもの連れの女の子は?」
「部屋で昼寝、だからリビングを使って。」
ご学友だろうか?
その青年は名影達が入ってくるのをニコニコと出迎えてくれる。どうやらカンパニー自体と関わりがあるようで、恩とはわざわざ個別に挨拶をしていた。
「飲み物出すよ。」
「何から何まで本当にごめん…」
全員が椅子やソファ、人によっては床に座る。小綺麗で温かみのある内装だ。
「で、事の次第についてなんだが…」
快人は名影の向かいの席に座ると、先程までのキツめの雰囲気を少し和らげ、逆に焦燥を滲ませながら話を求めた。
「あの…舞人くんに関しては今現状どうなっているのか判断しかねます。誘拐されたのか、それともどこかにいて、連絡がうまくとれていないのか…」
「君としては後者の可能性があると思う?」
「…いえ、極めて低い可能性の話です。」
快人と名影の会話が進む間に、ユキと呼ばれた青年が全員に茶菓子を出してくれる。
しかしみんな緊張のしすぎと、状況の混乱のせいで飲み物すらも喉を通る気がしない。
「誘拐されていた、西校の生徒って?」
「えっと…男子生徒なんですが…」
名影はそこでチラリと西校の生徒達を見る。
すると、リドウィンが口を開いた。
「カルマという名前の男子生徒です。西校の中でも比較的万能なタイプで、実際戦闘訓練でもオールラウンダーとして実力を発揮していました。家族親戚はいない…孤児の出です。」
「で、その彼に関して今回のようなメールが誰かに送られたことは?」
「ないです。だから正直最初は何がどうなってるのかよく分からなくて…」
それを聞くと、快人はん?と首をかしげる。そういう時の表情や仕草を見ると、あぁやっぱり兄弟だな、と思う。
「じゃあなんでここが分かった?」
「それは…その…」
体内埋め込み型の生体反応装置なんて、東ではあまり好まれない。しかし…
「生体反応インクを、彼はつけていたようで、反応が出たんです。ただそれが2箇所出たので、もう一方を芦屋率いる東校で、でこっちを西校に任せたのですが…その…ちょっと……し、心配でこちらに私達3人も見張りとして…」
名影は申し訳なさそうにそう言う。しかし西校の生徒からそれを非難するような声も視線も起こらなかった。
現に彼女がこちらに居てくれたおかげで、カンパニーに酷い目にあわされずにすんだのだから。
しかし、彼はそうは思わなかったらしい。
「しかし、君は首席だろう。むしろそちらの任された方を君が仕切るべきではないのか?見張りの方を次席に任せるべきだったのでは?」
「…っ全くその通りです。」
名影が珍しく萎縮してしまっている。
「ごめん…責めたいんじゃないんだ…ただ舞人が、妙な連中に捕まったかと思うと…」
一瞬の静寂。弟が心配なのは当然の反応だろう。
「ところで今回その誘拐をしたのは…トランプって連中で間違いないのかな?」
「えぇ恐らく。何名か顔が割れた人間の特徴なんかと巷の噂を比較して…」
「だそうだ。ユキ、君の意見が聞きたい。」
とつぜん第三者に意見を求めだしたことに、その場にいた大多数のものは少なからず驚いたが、恩などは特に驚いた様子ではなかった。
「まぁ巷の噂から判断して、顔が割れたやつがいて、特徴的な点がある、とかを聞くにあれだろう…斬り裂き魔だろう?」
そう言うと、生徒達が一斉に頷く。
「ジャックはトランプの顔役だし、綺麗な顔してるから噂になりやすいんだろう。それに武器が特徴的だ。今時チェーンソーなんて使うやつ、そういない。」
この人…情報屋か?
あまりにスラスラと言い当てられて、生徒達は目を丸くする。
「そのトランプって連中は過激な連中なのか?」
「いや…うーん…彼等は正規構成員が14人しかいない、少人数精鋭の武装集団として有名でさ。しかもジャック以外ほとんど顔が割れていない。バックには金持ち連中なんかがわんさといるって噂だけど…そのルートもはっきりしていない。最近は随分本格的に動くようになったみたいだけど、ちょっと前までは全然過激じゃなかった。」
情報屋にこれだけ喋らせたら、一体いくらかかるのだろう…
「あと、構成員がとてつもなく優秀なのが多い。……あとは、ごめん、有料だよ?」
ここまでの話は有料じゃなかったのか⁉︎
名影なんかは内心驚きつつ、その蒼白の美青年を見る。あれか?友情割り的な感じか?
「いいとも、いくらでも積むよ。弟の命には代えられない。」
「OK…彼等を実質取り仕切っているのは女王という女性だ。会ったことはないが、才色兼備を絵で描いたような人らしい。彼女は穏健慎重なタイプだと聞いたから…今回のそのメールに関してはもしかしたら彼女の意に反したものである可能性が高いな。」
それは名影も考えていた。ここに来て突然接触を図ってくる意味がわからない。SOUPとカンパニーを対立させたいのだとしても、やり方が随分稚拙だ。
「トランプで注意すべき人物と本拠地の大まかな地域は?」
「…君じゃなかったら簡単に売らない情報だよ?まぁいいや。実戦で注意すべきは、強いて挙げるなら3人。薬使いのデュース、斬り裂き魔のジャック、そして死神の異名を持つジェスター…かな?地域としては広範囲すぎてなんとも。北にはあんまり進出していないようだけど。」
情報は武器になる。とはよく聞くが、確かに情報とは大きな大きな剣にも、盾にもなりそうだ。
「じゃあ…君が仕事で会ったことがあるのは?」
「え…それ聞くのかい?」
さすがにその質問には青年も戸惑い苦笑する。しかし快人の必死な様子と、生徒達の縋るような(そして少しの好奇心の)目に、口を開いた。
「会ったことがあるのは…ジャック、シンク、トレイ、サイスだな…」
「そんなに…⁉︎」
「仕事柄ね。」
アリスの驚きの声に、困ったように笑いながら答える。
「年は?若いか、それとも比較的上か?」
「いや若いよ。彼等自身も若いし、巷の反体制派や反戦争派の若者からかなり支持されているきらいがある。」
快人はしばらく黙り込むと、立ち上がりその場にいる全員に話す。
「とりあえず、君らはPEPEに連絡を入れさせてもらって、迎えをここに寄越してもらいなさい。芦屋くん達も早急にPEPEに戻るんだ。SOUPやPEPEが今回のことに関わっているかもしれない可能性も引き続き考慮に入れつつ、今後は我々も2人の少年の捜索を手伝おう。」
そらからユキ青年を振り返ると
「金額は後で連絡してくれ。きっちり振り込むから。今日はありがとう…また来るよ。」
「あぁ、待ってるよ」
快人がいなくなると、みんなはようやく飲み物に口をつける。喉が張り付きそうなほど乾ききっていた…が飲む余裕が無かったのだ。
「連絡はしたから、ゆっくりしてね。ここはとりあえずは安心だからさ。」
ユキ青年の不思議と和む空気に救われつつ、それでもやっぱり気分は沈んだ。
またゼロからやり直しだ……