2人目
「愛生‼︎大丈夫かよ⁉︎」
なんとか走って追いついた時にはトランプの連中は居らず、蒼井がコンテナに寄りかかって気絶していた。
和田がなにやら首元をゴソゴソやっていると、蒼井が明らかに不自然な機械的な目の醒まし方をする。
「逃げられた…。」
「しょうがねぇよ‼︎いやでも愛生は頑張ったって‼︎」
「いきなり後ろからやられた…一瞬だけ、顔見えた…あの、あいつ…裏切り者だった…」
蒼井が芦屋を恐る恐る見あげる。
「…っあぁ…嘘であって欲しいと思ってたけど、どうやら言い逃れできねぇ感じだな…」
「⁇まぁとりあえず戻りましょう。あの女の子のケガも心配だ。」
和田は2人の会話に首を傾げながらも、蒼井に肩を貸し立ち上がる。
戻ると、シヨンは応急処置も済み、顔色は悪いものの涙はあらかたひいた様子でうつ伏せになっている。ティトも芦屋達が帰ってきたのを見てホッとしたようで、その場にへたり込んだ。
しかしアレイがいないことに気づくと、
「あれ?アレイくんが追っかけてこなかった?」
アレイから離れるべきではなかった…敵に気を取られすぎていた。芦屋は反省しつつ、口を開いた。
「裏切り者は…西校のやつの誘拐に手を貸していたのは、アレイだ。」
「え?」
「だから多分…連中と一緒に逃げたんだろう。もう俺らとは決別してしまった…。 とりあえず舞人呼んで、俺らは早めに戻ってよう。」
芦屋は黄色と白の煙硝弾を打ち上げ、伏に戻ってくるよう知らせる。
「アレイくんが…」
ティトはまだ信じられないようだ。まぁ、アレイは"良い奴"だったしな。
シヨンも信じられないと目を見開き驚いている。
「…?なんか話についていけないっすけど…まぁ俺は知らなくても良さげっすか?」
「あぁ全然知らなくて良さげな話だ。」
「了解っす‼︎ところで…あの小柄な子遅くないっすか?」
言われてみれば…舞人にしては遅いな…
ちょっと見てくるか?
「ティト、撤退準備進めててくれ。舞人のやつ合図に気づいてないのかもしれない。呼んでくる。」
「えぇ。」
舞人のことを、過大評価していなかったか…と言われれば、確かに、あいつならなんでもできる、1人でも大丈夫と思っている節はあった。
「…舞人?」
持ち場に伏の姿はない。しかしすれ違ってもいなければ、上から見て下を走っている姿も目撃していない。さらに、向こうに戻ったなら、黄色と白の煙硝を逆に舞人があげるはずだ。
なんでいない?
まさか…いやしかし…ワイヤーは張られたままなのだ。回収しないわけない。
……してやられた…のか?
俺が舞人を1人にさせたから?
どうしよう…親友がいない…
「な…なんで東の代理戦争組織が⁉︎」
女子も慌てて中に入ってくる。どうやら周りを囲まれているらしい…
西の代理戦争組織ならリドウィンに事情話して通してもらえるのに…東校からも誰か連れてくるんだったか?
「どうする?」
リドウィンが銃を窓に向けて構えながら問いかける。地下では逃げ場がなくなるからと、一階の一室に来たのはいいが、囲まれていては結局逃げ場なんてない。
上へ逃げたところで、隣家との間が開きすぎていて、庭を突っ切らなければならないから、やっぱりこれもダメ。
コツ、コツ、コツ、コツ……
革靴の足音が部屋に近づいてくる。
女子を輪の中心に庇い、全員で扉の方へ銃口をむける。リドウィンだけは窓から注意を離さない。
コツ、コツ、コツ……コツッ。
ガチャッ
「どうも。」
扉から入ってきたのは、長身痩躯の好青年。腕にはカンパニー同士が互いに見分けをつけ、余計な抗争を起こさないようにと、構成員に着用を義務付けている、腕章。
黄が南、青が北、緑が西、そして青年が着けている赤が東の腕章。それぞれ腕章はその地域最大勢力のカンパニーが着用する。さらにそこに入った白線がカンパニー内での立ち位置を示している。
3本ということはかなり上位だ。
1〜7まであり、3本までが幹部や幹部候補になる。つまり目の前の好青年は、その優しそうな柔和な笑顔に似つかず、"紅楼"の"上位者"なわけだ。
「あ…あの、僕ら…」
フィリップが声を絞り出すと青年はそんなもの聞こえてないとでもいう風に、悠然とフィリップの銃口の前に立つ。
「撃つかい?」
「え、いや…」
ど、どうする⁉︎どうすればいいのか全然わかんねぇ…
「か、快人さーーーん‼︎」
ふいに玄関の方から声がした。…聞いたことがある気がする。
「なんか、外にPEPEの東校の生徒だとか言う女の子が1人に男が2人…どうしますか?」
「東校…?いいよ、連れてきて。」
青年の合図で部屋にやってきたのは…
「……⁉︎」
東校の首席⁉︎
「おや、やぁ。名影さんところの子じゃない。」
「どうも、快人さん。いつも弟さんにお世話になってます。あの…その子達、クラスメイトを探しにここに来ただけなんです。だから威嚇しないであげてください。」
名影がそう言うと、魁斗さんはしばし迷ったようだが、無線で指示を出し、周りを囲んでいる連中の武器を下ろさせた。
「で、あの…なんで快人さんがここに?」
「その前に、君らに説明してもらいたいことがある。舞人は君らと一緒じゃないんだね?このふざけたメールに心当たりは?」
名影とロブ、恩は差し出された端末を受け取り、メール内容を確認する。
伏快人氏
明日南西B地区にて貴君の弟である伏舞人氏を頂戴いたし候。
その上で取引をさせていただきたい。
明日こちらの邸宅までお越しいただきたく。
送り主は書かれていないが、サーバーのタグはつきっぱなしで、そのタグは間違いなく…
「これはSOUPからカンパニーへの宣戦布告かな?」
なぜだ?なぜSOUPのタグがついている?SOUPの内部にも、すでにトランプの息のかかったものがいるのか…?
「あ、あの‼︎わたしたちのクラスメイトが"トランプ"っていう武装集団に誘拐されて、それでそのクラスメイトを追ってたらここにたどり着いたんです‼︎」
「じゃあ、そのトランプって連中が舞人も?昨日から電波妨害なのかなんなのか舞人に電話も通じないし、PEPEの方にも連絡がつかない。それも全部その"トランプ"って連中がやってたのか?」
やるのは不可能ではないだろう…なにせPEPEには、まいっちの近くにはアレイがいた。アレイにかかれば妨害くらい容易いだろう。
しかし…なぜ居場所をバラした?
なぜわざわざカンパニーを敵に回した?
連中は何を目指している?
「零ちゃん、良ければ少し僕とお茶しないか?話が聞きたい。」
「え、あ…それはいいんですが…一旦、芦屋に連絡を取らせてくださいませんか?いま舞人くんは彼と一緒にいるはずなので…」
名影がそう言うが早いか名影の小型端末に芦屋からの着信が入る。首席と次席にだけ配られるこの端末は、空気中にスクリーンを表示させる超小型の機械だ。
名影は嫌な話でないことを望みつつ通話にする。
するとスクリーンには芦屋が映し出される。
『悪い…アレイに逃げられた…あと………舞人が…いない……』
最悪だ…1人目の救出に向かったはずなのに…
よりによって戦力になる人ばかり…
スクリーンの中の芦屋の顔は青ざめ、事の大きさは問うまでもない。