女王の城 もぬけの殻
「…いない?」
カルマがいないだけではない。誰もいないのだ。
「どうなってる?」
リドウィンも困惑し改めて辺りを隈なく探すが見当たらない。最初に入ってからかれこれ1時間近く、ロフトの上や地下室に至るまで全て探ったにも関わらず、人っ子1人いないのだ。
「おいおい…どうなってる⁉︎」
「フィル‼︎リド‼︎大変‼︎」
その時、アリスが部屋に駆け込んできた。
女子は外の見張りをしていたはずだ。もしかして…外から連中が入ってきた?
「か、カンパニーの連中が来てる‼︎東の‼︎」
「「…は?」」
「彼等が入って行ってから動きゼロ…っと」
スコープを覗いていた恩が、目が疲れたと言って、ロブと場所を変わる。
「まさかもうやられたか?いや…でもカーテンの隙間から人影が見えるか…なにやってんだ?」
「見つからないなら速やかに退散すべきなのにね。ってかもうこれではっきりしたじゃない、向こうはセンサーに気づいてる。しかも多分カルマくん?のセンサーは体内埋め込み型ではなくってインクだった…」
名影は淡々と語りながら、横のフェンスから身を乗り出し自分達のいる階下を見やる…とそこで見知った、しかしここで見るには奇妙な人の姿を捉えた。
「快人さん…⁉︎ちょっ…恩‼︎」
呼ばれて恩も身を乗り出す。
「あ、本当だ。伏の兄貴だ。」
階下には長身痩躯の美青年が立っている。美青年とは言っても、たとえばトランプのジャックなんかとは違って派手な華があるタイプではない。
どちらかというと落ち着いていて、爽やかな好青年と言い換えられる感じ。
そして言わずもがな、伏快人は伏舞人の実兄である。雰囲気も背格好もあまり似ていないが、互いに尊敬し合う仲の良い兄弟である。
で、問題はなぜ東最大の代理戦争組織の幹部候補がなんでまたこっちのB地区に来てる?ということだ。
女王の牙城は西と南に跨るB地区にある。東と北に跨る方のB地区ならば分かるが、ここはカンパニー紅楼の管轄外だろう。
「なんかまずいんじゃないか?」
「おい‼︎なんか囲まれってっぞ‼︎」
恩と名影が反対側から乗り出して見ているうちに、ロブが女王の牙城に奇妙な動きを捉えた。
「なんでカンパニーが?伏か、最悪芦屋でもいりゃあ…僕じゃ身の証明するのに時間かかるし…」
恩もカンパニー関係者の息子、どころか立場でいえば今階下にいる連中よりはるかに上だが、伏の兄とは直接会ったことがない。写真で知っているだけだ。
「私は会ったことがある。とりあえず話は聞いてもらえるはずだ‼︎行くぞ‼︎」
ロブと恩は名影の合図で瞬く間に荷物をまとめると、上からカパを被りヒラリと身を翻して名影についていく。
足音もなく、ただ静寂だけが後に残る…