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トラストルノ  作者: なさぎしょう
序章
13/296

戦闘訓練 名影vs伏


僕はずっと兄弟の中でも、クラスでも、戦闘訓練においてはトップだった。

勉強は聖くんに敵わない。それでも、戦闘訓練なら、負けなしだった。


それが、Sクラスに入り、首席と組んではじめて全く歯が立たない、という経験をした。と同時に戦闘においてはじめて人に憧れた。

彼女の持つスラリとした武器(かたな)も、舞うように闘う彼女の姿も、そしてなにより、確実に相手を捉えた時に見せるあの鋭い眼差し。



「いよっ‼︎てやぁっ‼︎」


声高に掛け声をかけながら、部屋の中を縦横無尽に駆け回り、時には壁を走ったりしながら、名影からの一振り一振りを避けて行く。

しかし一振りも掠らないということは、はなから名影は伏本人よりもその後ろに張られていく伏の持ち武器(ワイヤー)をうまく切っていってるのかもしれない。



伏舞人(ふせまいと)の武器は、ワイヤーだ。普段使っているのは切れ味抜群で高圧電流も流れる特殊ワイヤーである。でもさすがに訓練でそんなのは使えないので、普段より太めで透明な練習用。

伏のワイヤーは切れ辛い特注品。小柄な彼も戦いやすいように、と父親がわざわざ知り合いに頼んで作らせたものだ。

だが、名影の持っている武器(かたな)には敵わなかった。

スパッとあっさり斬られたのだ。


その武器は伏も見たことがあった。父の仕事仲間の1人が持っていたのだ。旧日本で、うんと昔に使われていた"日本刀"は斬れ味抜群、短い物から長い物まであってどんな戦にも使用可能で、なにより美しい。

ただ、斬ることには長けていても、突いたりするのにはいささか不向きなようでSクラスのメンバーも扱いきれずにいる。結局、今のところ日本刀を使うのは、名影と真城、そしてたまーにティトぐらいだった。



「よっと‼︎」


手元にくんっと引っ張られるような感覚がして、伏は壁から半転しながら床に着地、そのまま左手を強く前に引く。

すると、名影の右手がピタッと動きを止めた。


「まずは利き手…」


自分自身に言い聞かせるように呟き、今度は右方向に駆けながら右手を大きく振るう。

そうすると、名影の身体が腰の辺りから何かに引っ掛けられたかのように宙に浮いた。


「わっははっ‼︎とどめだ‼︎」


伏のワイヤーは透明にしておくために赤い塗料は塗られていない。そのため、最後の一撃は左手、手袋の下に塗られた塗料を相手の首より上のどこかにべったり付けにいくしかないのだ。

訓練はこの動作分、明らからに不利だ…。

しかし、これを成功させるために名影の利き手も動かないようにした。足元にもワイヤーをいくつか張ってある。

伏には手元の振動だけで見えないワイヤーが何処にあるかがわかる。今なら、名影に近づいても問題ない。


ひたっ…


ばっ‼︎


いま…首元に何か触れ…た?

伏は首元に冷たい何かが触れた気がして振り向く。しかしそこには当然何もない。

そこで気づいた。


視線やその場の空気の流れを"掴んで"相手に錯覚させる。名影の十八番(おはこ)だった。

分かってはいても、引っかかるのだ。


伏は慌てて振り返る。

そこに宙に浮いた、名影の姿は無い。


「どこだ⁉︎」


そういって再度部屋を見まわそうとしたところで、首筋にヒタリと、今度こそ確かな感覚があった。


動かないで(フリーズ)


冷静な名影の声が後ろから聞こえる。でもまだ、可能性があるうちは、伏は諦めたりしない。


「ふんっ‼︎」


上体を前屈させ、そのまま脚を振り上げる。と、伏の顔を見下ろす名影と目が合った。


また、あの目だ…‼︎


確実に捕らえられた証拠だ。

伏の脚を避ける。そのまま間合いを取ろうとした伏に対し、逆に詰め寄り肩もとを抑え、腕を引いて身体を返しながら、床に倒す。そしてそのまま、伏の上に乗り完全に抑えつけた。

刀はいつ手放されたのか、倒れた2人の真横に上からすとっと落ちてきた。

そのまま名影はその刀を床から抜き、もう一度伏の首元にあてがった。


「むーっ……ゔぅ…ギ…ブ…」


悔しいので言うまいと思ったが、どう頭を巡らせても、次の一手が浮かばない。

やむなく戦闘不能を訴えた。


「うー…やっぱり強いよ‼︎なーちゃん‼︎」


伏は名影の手を借りて立ち上がりながらふてくされる。どうやっても名影に圧勝できない。

勝ったことが一度もない訳ではない。でもどれも勝ち、と呼んでいいものか甚だ疑問で、しかも名影が戦闘不能を訴えたのではなく、センサーが勝手に戦闘不能とみなしたに過ぎない。

その時、伏はいつも違和感を感じる。名影は本当はもっと戦えるのではないか、そもそもその程度(・・・)の攻撃では傷つきもしないのではないか…と。

名影は礼節もしっかりしているタイプだから、手を抜いている、ということはないと思う。それでも"勝った"と思えない。

しかも勝ちの数自体、そもそも名影の方が圧倒的なのだ。


「なーちゃん強くていいなー‼︎」


そう言うと、名影はいつも困った顔でわらいながら


「いや、そんなことないよ。」


と言う。

名影は自分が強い、と主張しない。むしろ控えめ、というか謙遜の塊みたいなタイプだ。

それが逆にうらめしくもある。


「次はなーちゃんに絶対勝つからね‼︎」


通路に出て、歩く名影の前に回り込んでそう言うと、名影は一瞬驚いてから、頷いて「受けて立つ‼︎」と笑ってくれる。


名影に今度こそ勝つ。

圧勝してやるんだ。


それから、もう1人。まだ一度も訓練であたったことがない人がいる。

その人もかなり強いらしい。

ほら、今もまだ聖くんとやりあってる。通路からは部屋(ケージ)の中が見えるようになっている。



ナギ…一戦交えてみたい。


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