コンテナ戦地 加勢
また新しい硝煙があがる。紫、黄、オレンジ…助けがいる。僕以外の3人。
「潤くん、シヨンちゃん、蒼井くん‼︎」
「3人も⁉︎そんなに相手が強いのかしら?」
「とにかく、ここは僕に任せて‼︎行って‼︎」
それを聞いて、真っ先に真城がコンテナの迷路に飛び込ぶ。その後を追って2人も入っていった。
もともと単独行動を好む真城と、連携を重視したがるシヨン…2人はわざわざ別々に飛び込んで行ってしまったが大丈夫だろうか?
「さて…」
伏は左右のワイヤーを軽く引っ張ってみる。どちらも張っていて、ワイヤーが切れたり、獲物がかかったりはしていない。みんなが掛けていってくれたぶんも含めて、伸ばされたワイヤーは伏の手足であり、そして目であり耳でもある。
いや…触手か?触れれば感知できるようなもの。
「まぁ僕、虫じゃないけど‼︎」
なんだかすごい音が、3人の向かった方から聞こえて、参戦できない状況がもどかしいが、任されたことをキッチリこなさなければ‼︎聖くんの期待にも応えたい‼︎
1本向うの通路をシヨンと蒼井とかいう奴が走っている気配がある。
本当なら俺はこっちにいたくなかった…いやもしくは零にこっいにいて欲しかった。しかしまぁ、「助けてやって」と期待をかけられた訳だし、今の俺に出来るのは芦屋をフォローすること…か。
見えた‼︎あの茶髪野郎か?あいつだな、あいつが敵だ。
…1人、か?
しかし1人でもティトと芦屋を上手くあしらい、むしろ優勢にたっているように見える。
「ねぇ、あんたアレイやられないように側で見てなさいよ。万が一爆弾とか通信電子系の問題があった時絶対必要なんだから。」
シヨンが蒼井にそう言うと、蒼井は「わかった」といってアレイの側へ駆け寄っていく。
シヨンと真城は自分の愛用品を携えると、対茶髪野郎の戦闘に加勢する。
相手の武器がチェーンソーとなると、中距離を得意とする芦屋やティトは有利…なはずだが、相手の反射神経と単純な機動力の高さがそれをむしろ不利にしている。
一瞬である程度間合いを詰められてしまえば、小銃や投擲ナイフでは、チェーンソーにとても歯が立たない。
その点、あとから来たシヨンと真城は2人とも長物を扱った接近戦を得意としている。相手がチェーンソーだということが若干不利にしてはいるものの、芦屋達よりはいくらか戦いになるだろう。
チェーンソーなら重みもあるし、身体の動きが鈍るだろうと考えた、芦屋の勘は外れたが、相手の人数がどうやらとてつもなく少ないらしいことが有難い。
「次から次へと、強そうな奴らがうようよと…」
ジャックはそう呟きながら、後からきた2人にまで今度は意識を配る……と
ヒュッ…キーーーンッ‼︎
「っ⁉︎」
は…はえぇな、おい。
日系の少年のスピードと、迷いなく顔面に飛んできた刀の鋭さに思わず怯む。しかも少年だけでなく、後ろから長いパイプのような物で少女まで襲いかかって来やがった。
「すっげぇなぁー‼︎」
俺が避けたせいで鉢合わせになった2人の武器が強すぎる力によってわなないている。
「死ね。」
少年の方は目がイッてる…とてもじゃないが優秀な学生の1人というには、狂気じみてないか?
「…ちっ‼︎」
本当はこう何度も女性を蹴ったり切ったりしたかねぇんだけどな…
ジャックはうんざりといった表情のまま上に飛び上がり、くるりと身体を反転させる。そしてそのままチェーンソーの刃を、少女の腿に這わせるようにして振り下ろした。
「ゃあぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
そりゃ痛いだろう。辛いだろう。泣きたいだろう。
シヨンの腿の裏側が綺麗に削がれ、真っ赤に染まる。皮とわずかな肉片がチェーンソーの刃から零れ落ちる。
「あっ…あぁぁぁぁぁ…」
崩れるに崩れられず、前倒しにうつ伏せになってシヨンは悶える。
これで少年への牽制にもなるはずだ。
という考えが甘かった。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
痛くはない。熱い。
立っていられないのに、脚が痙攣して倒れることも出来ない。
その一瞬のうちに自分の身体が自分の意思を離れてしまったかのような感覚がした。
目の前で旧時代ホラー映画の1シーンさながら血飛沫があがる。スプラッタものは零から借りて観たことがあるが、やっぱり生で見ると"痛そう"なんでレベルじゃねぇな。
真城はそんな事を考えつつも、シヨンを介抱する気は毛頭無く、日本刀をきちんと持ち直すと、そのままジャックへ突っ込んだ。
「なんだよ…油断してんなよ。」
シヨンの血飛沫が相手にとっては逆にアダになった。
そのままジャックの肩に日本刀を突きつけ背後のコンテナに突き刺す。特注の刀は折れずに、僅かではあるが金属のコンテナに突き刺さった。
首へ手を這わせ締めるようにする。
チェーンソーの刃は持ち手の部分を足で押さえつけて動けないようにし、完全に捕まえる。脇腹の辺りを切られたが、視覚に入らなければ痛みなどない。そもそも、怪我に真城自身が気がついているかも怪しい。
「さっすが化け物…」
即座にシヨンの介抱にあたったティトと、アレイ、蒼井の元に一度戻った芦屋が、2人して真城を見上げる。
ジャックと真城のいるコンテナは近寄りがたい雰囲気をそこに纏っていた。