コンテナ戦地 2
芦屋達からの合図を待っていると、すごい地響きと共に爆炎があがった。
「え…えぇ⁉︎なにあれ‼︎」
さすがのことに伏も目を丸くする。
あれは、でも、芦屋からの「動け」の合図ではない。合図の狼煙にしちゃでかすぎる。
「相手は…爆弾まで…‼︎」
「いや、あれ絲志の…」
「はぁ?和田ぁ?」
シヨンが目を見開き、ありえないという風に問い詰める。
「あんな爆発起こして万が一私達や人質を巻き添えにしちゃったらどうすんのよ⁉︎だいたい、芦屋次席から連絡が入ってないってことは、和田が独断専行してるんじゃ…‼︎」
一気にまくしたてられ、蒼井は目を白黒させる。
その時、空に向かって青い硝煙弾がはなたれた。芦屋からの「行動開始」の合図だ。
「みんな、バラけて横陣を‼︎」
伏の率いる4人はある程度お互いが見える程度の距離まで一気に離れる。それから全員が下準備を手早く済ませ、中心の伏に合図を送った。
いま、少なくともこちらの側からコンテナ群を抜けるのは難しい。至難の技を必要とする。
といって向こうからは芦屋達が追っている。側面はコンテナが周りよりもさらにうず高く積まれており、登っている間に易々と追いつけてしまうだろう。
完璧…ではない。どんな状態だって完璧とはいえない。しかし、逃すわけにはいかない。
こちらに近づいてきているのが3人、さらにコンテナ群の外に控えているのが…4人、だろうか?
7人を1人で相手どるのはさすがにきびしい。といっておめおめ逃げ帰るわけにも、いかない。少なくとも手土産は用意しなくては!
「しっかしどっちにいるかもわからんしなー…7人全員で俺の方に来てくれたなら見つけやすいのに。」
まぁその分戦い辛くはなるわけだけど。
ピッピピッ
電子音?…まさかもうテンが負傷するとは‼︎これはいよいよ厄介な戦いになりそうだ…
出来れば、生きて帰りたいのだが。
芦屋はこちらの人数があちらに知られている可能性も考慮して動く。もしかしたら今いる位置すらも向こうに知られているかもしれない。
「アレイ、見えたか?」
「あぁ10時の方向に1人いる。」
さて、どうやって攻めるか。
さすがに敵が2人だけとは考えづらい。つまりまだ隠れている可能性もあって…
「ねぇ、私に行かせてくれない?」
頭の中で作戦を練っていると、ふいにティトが声をかけてきた。
「え?いやまぁいいっすけど…でもいいんすか?」
「えぇ‼︎」
ティトは自信満々に頷くと、はためくカパの裾を持ち、身体により密着させるようにして飛び出していった。
和田の方に何人引きつけられているのか、こちらに何人残っているのか、分からない状態でもあれだけの自信を持って飛び出すとは…
それにみんなが普段よりも自分で動いているような気がする。いや、自分で考え動くより他にないからか。名影だったら完璧な指示を、出すことができていただろうしな。
カパを極力なびかないようにしつつ、目視出来た1人の方へ向かっていく。向かいながらも、もちろん周りには気をやり、誰かが飛び出してこようものならすぐに応戦する構えだ。
しかし、それほどの人数はいないのではないか。
これがティトの読みだった。和田が最初に起こした爆発の時、叫び声はわずかに2つ聞こえた。たったの2つだ。
つまり指示者が2人であっても率いることのできる人数だ。しかもここまで人っ子ひとり遭遇もしていない。
目視した人間の近くまでくると、伏から借りたワイヤーを巧く使い、積み上げられたコンテナの中途まで音もなく登る。そしてわずかにあいたコンテナとコンテナの隙間に身体を滑り込ませ、相手の頭上にまでやってきた。
下にはフワリとした猫っ毛の茶髪が見える。
まだ若い……‼︎
連中も指揮を任されているのは若手か。
ティトは猫っ毛のぴったり真上にまで腕を伸ばすと、手の中からバラバラと5つの小さな球体を落とす。
キィィーーーーッン……
嫌ぁな音共に共に球体は弾けとぶと、中からインクが飛び散る。速乾性の接着インキだ。
上手く…行ったか?………‼︎
「へぇ、女の子じゃん。」
インクが落ちきったところに、猫っ毛はいない。
代わりに、振り向いたティトの目と鼻の先に綺麗な淡桃と茶の瞳が迫っていた。
っ‼︎しくじった‼︎