喧騒
なにやら朝から騒がしい。
女王も朝わざわざ挨拶をしにきた以外は部屋にやってこないし、扉の外からは幾人もの足音が聞こえる。
「なんかすごい忙しそうですね。何かあるんですか?」
カルマは部屋の中でせっせと何かの準備をしている、小柄な初老の男性に声をかけた。男性はびくっとすると、こちらは見ずにおどおどと答える。
「さぁ…自分ごときには皆目検討もつきませんな。自分はただ言われたことを言われたままにこなすだけですので…」
「そうですか、すみません。」
カルマは退屈になって、ベッドに寝転がると天井を見上げた。
もしかしたら、万が一にも、みんなが助けに来てくれるのではないか?と期待してしまいそうになるが、まぁたかだか1人や2人のために将来有望な若者達が命を賭すとは思えないし、そんなことはあってはならない。
ましてカルマは元孤児だ。本来ならPEPEにいることさえ叶わなかったような人間だ。
このまま一生、ここで安心安全な贅沢の極み、な生活を送ることになるのだろうか。
カルマは憂鬱な気分を振り払うように頭を振った。
つまらん……またジャックか、エイトが来てくれりゃあ話し相手になってもらえるのに……
「エイト‼︎セブンは巻き込まれないようにどっか宿にでも泊まらせなさいな。」
女王はわざわざ宿泊費には有り余るほどの額を渡しながら言う。いつもこうして、なんだかんだ気に掛けてくれる。
B地区では金銭が使える。トラストルノの外では相も変わらず、金で市場が回っているのだ。
「すみません、ありがとうございます。」
女王にお礼を言うと、エイトはすぐさまセブンのいる部屋に向かい、貴重品と着替え数枚という、元々たいして多くもない荷物をまとめて、セブンと一緒に部屋を出て行った。
「うぅぅ〜……」
セブンはなんとなく不安げだ。
「ナナ、大丈夫だから。」
セブンとエイトは手を繋いだままでB地区郊外のホテルへ向かった。
本当はホテルにセブンを置いて、自分だけ向こうに戻らなくてはならないことに不安が無いわけではない。
しかしPEPEの生徒達、ことSクラスの生徒は相当戦闘にも長けているというから、手伝わないわけにはいかない。でも…死ぬわけにもいかない。
「ナナ、服の裾引っ張んないで。おい。」
いつものように手を軽くトントンと叩いてもセブンは手を放そうとしない。それどころかより強く握りしめ、首を横に振り続ける。
…困った。
コンコンッ、コンコンコンッ
突然、ホテルの部屋の扉がノックされ、2人はそちらを振り返った。"届け物"の合図だ。
エイトは訝しみつつも、セブンの手を無理矢理こじ開け引き離し、扉に向かった。誰だろう…というか何だろう。何を届けにきた?
「はい。」
万が一に備え態勢を作りつつ扉を開けると、今日客人の相手を押し付けられていた初老の男性が立っていた。
「⁉︎え、な…なにを⁉︎」
「女王様からの命により、お連れしました。むしろこちらの方が安全だろうと…ただし客人の手錠だけは外さないように、と。エイト様はそれに伴いまして、あちらには戻られなくていいそうです。客人とセブン様のご面倒を、とのことでした。」
女王が客人に手錠?
そもそもお連れした…とは…
エイトの疑問に答えるように、男性が半歩後ろに下がる。
男性の後ろには、カルマ本人が立っていた。