女王の城
「で、奪還にくると?奪還もなにも彼は私のお客様なのに?むしろその子達みんなをおもてなししたいくらいだわ。」
クイーンはテンからの連絡を受けてもなお、余裕を滲ませつつ答える。
それを横に立った白衣の青年ーサイスが見ている。スラリとした体躯に、ふわりとした茶髪、年の割に幼さの残る顔立ち、まっさらな白衣。サイスはジャックやケイト程ではないが、端正な容姿を持っていた。
その上頭もいい。
トランプお抱えの医者兼戦闘員といった立ち位置にいる。
そして…
「はぁ…ジャックもテンももう少し余裕と自信を持ってほしいものだわ。」
「ジャックはなんでそんなに自信がないんでしょうね?」
サイスはジャックを目の敵にしている。
「そういえば、この間また何か実験していたんですって?」
「えぇまぁ…ケイトに協力してもらって。」
「実験するのは構わないけれど殺さないでよ?断末魔が外まで聞こえたって住人達が言ってたわよ。」
「殺しませんよ。保護者に俺が殺されちまいますもん。」
クイーンは「あらそ。」とさして興味なさげに返答すると、今度は別のところへ連絡をし始めた。
トランプという組織自体は14名で構成された小規模武装組織だが、そのトランプがここまで力をつけられたのは、ひとえにクイーンの力によるところが大きい。
ありとあらゆる界隈に持つ人脈、資金のやりくり、14名の動向の把握…トランプの実質トップたる女王の力と才は全員が認めている。
明確に上下関係は決めていないとは言え、彼女のもとで成り立つ組織なのだ。
キングにいたっては全くクイーンに歯が立たない。
「えぇ、そうよ。そう……ありがとう。|Amarte(愛してるわ).」
電話の向こうからはドイツ語、彼女は英語、最後はおそらくスペイン語、サイスと話す時はロシア語、テンと話す時は中国語…彼女はいくつもの言葉を使いこなす。
トラストルノでは2〜3個の言語が話せるのは普通のことだが、彼女のように20以上の言語を操る人はさすがに珍しい。
トラストルノは国家が解体してから多種多様な民族、種族が入り混じりになったことに加え、表上は完全個人主義のために共通言語も作れぬままにきてしまっているのだ。
「なんだかね、東校にとっても可愛い子供がいるんですって‼︎上手くいくようならその子をお招きしたいわ。」
すごい人だ…でも狂ってる…。
さすがにあいつに同情する。自分の母親が、自分を遠ざけ、他人の子を我が子同然に、むしろそれ以上に愛する。
女王の城には沢山の子供。
それからお菓子と沢山のお花。
いつも幸せな世界。