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トラストルノ  作者: なさぎしょう
遊戯場
114/296

上に立つ者


「結局東校(イースト)が2つとも突き止めちゃったな…」


「やり方がぶっ飛びすぎだろ‼︎」


そんな他生徒の声を聞きながら、小会議室(タッチルーム)へ向かった。先程校長からの呼び出しに行き、戻ってくると東校(イーストヤード)の首席が対談の場を設けて欲しい、と言っている旨を告げられた。

とりあえず小会議室(タッチルーム)のエアスクリーンで話せばよかろうとここへやって来たが…


「はぁ……」


校長からも、クラスメイト達からも、無事が1番で、よく戻ってきたと言われた。実際助かってよかった…でも…


俺は何も出来なかった。

東校の連中だけじゃない、同校の2人ーカルマとリドにすら敵わないと感じた。

指揮も取れず、結果クラスメイトの1人がこうして行方知れずになってしまっている。

そして現在も俺は大したことを成せていない。





『もしもーし』


気分が沈み何度目かのため息を漏らしたところで声が聞こえた。慌ててエアスクリーンのスイッチをいれる。


「やぁ。発信源の特定どうもありがとう。」


『いえいえお気になさらず。こっちはそういうのが得意な子がいるから。』


「そうか。で、話とは?」


エアスクリーン越しですら対峙してわかる。落ち着いていて、しかし自信にも満ちていて、リーダーとしての自覚もきっと十分にあるのだろうと。


『えぇその…大変言いづらいのだけれど…』


「?」


東校の首席が俺に言いづらいこと?なんだ…まさかカルマになにか…⁉︎


『実は東校(うち)のSクラス内にトランプと通じてるものがいる…と思われるの。まだ本人には確認していないけれど、ほぼ間違いない。』


「そんなようなことは西校(こっち)でも出てたよ。」


『でしょうね。それで、無理は百も承知でお願いするのだけれど、そのことをまだ西校の生徒たちには黙っておいて欲しいの。』


「でも俺には言うのか?」


『だってあなたは西校(ウエストヤード)の代表じゃない。さすがにあなたにくらいは言わなきゃと思ったのよ。まぁ…』


名影はニマッと笑う。


『責任を一緒に負ってもらおう、っていう魂胆もあるわね。』


"責任"ね…。

まぁ責任くらい負えなくてどうする、という話だ。しかし黙っているというのは、西校(ウエスト)のみんなへの裏切り行為に等しいのではないか?


『あなた、何か悩んでるの?』


「え?」


突然名影の声色が変わった。先程までの自信に溢れた声色から、優しさを含んだ柔らかいものへ。


『今回のSOUP(スープ)本部でのことで何か悩んでるのかと思って。私でよければ相談に乗るよ、せっかく同じ立場にいる者同士な訳だし。』


あぁ、彼女は勘も鋭いのか…


「いや…ただ自分の不甲斐なさに失望していただけだよ。」


『もしかしてカルマくん?だったっけ、彼が拐かされたのは自分の責任だとか思っちゃってる?それとも私達が先に反応地点調べ上げたことを気にしてる?』


「どっちもさ…」


そう、どちらもだ。なにもかもだ。

悔しい…よりも情けない、という思いが先に立つ。


『ねぇ、フィリップさん?』


「フィルでいい。」


『フィル。私もあなたもトラストルノ唯一にして最高の教育機関であるPEPEの、トップ達の集うSクラスのさらにトップにいるわけじゃない?』


「?あぁ、そうだな。」


フィルには名影がなにを言いたいのかが全く見えてこない。


『でも実際、それはトータルで見て数字が良かった、もしくは家が良かった、それだけのことであって…別になにも特別なわけじゃない。周りには自分よりもはるかに優れた人がたくさんいる。』


フィルは訝しむように眉を寄せる。目の前で話す名影(しょうじょ)の周りに、彼女よりも優れた人間が沢山いるようには思えない。


『でも私達は望もうと望まなかろうとトップにいる以上、常に周りを平等に見て、采配し、自身は常に完璧でなければならない。』


それだ。そこの部分が俺には無い…完璧、というのが無いのだ。それなのに周りからはそれを求められる…。


『しかも、常に人より責任を負い続けなければいけないわけじゃない?正直、私は首席って結構…孤独?なものだと思うのよ。』


「孤独?」


『そう。だって、あなたがいま周りに悩みや弱音を話せないのはなぜ?トップにいるから、首席だから、じゃないの?自分は折れてはいけない、負けてはいけない、強くなくてはいけない…』


いままで、首席でいることを孤独だと思ったことなんてなかった。辛い時もあったが首席なのだから乗り越えて当然だと思っていた。…孤独か。


「あんたも孤独なのか?」


『もちろん。まぁ孤独じゃない人間なんていないって言われればそれまでなのかもしれないけれどね。』


彼女は可笑しそうに笑って話す。

余裕そうに見えて、彼女にも"首席としての"悩みや重圧があるのか、と思うと、少し気分が晴れた。嫌な気分の晴らし方かもしれないが、心が軽くなって、視界が広くクリアになった気もする。

フィリップも名影につられて、久しぶりの笑みをこぼした。




それから2人は、双方の作戦を確認し合い、東西首席会は閉じられた。


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