率いる2人
移動している方は突き止めた。B地区ももうじき特定が出来そうだ。
「で?問題は東校に出た反応だ。」
「それももう分かってる。」
「で、どうすんだよ?」
「どうするって?」
名影と芦屋は寮の屋上で2人、今回の件について話を詰めていた。互いに能力を認め合った好敵手で、こういう時、2人でいると方針や考えがまとまる時が何度かあった。
ただ2人だけでどこかに行こうとすると、真城が百発百中ついてこようとするのが難点ではあったが、幸い今は本校舎の馬鹿でかい医務室へ腕の診察へ行っている。
「俺は詳しい状況なんかを知らない。だから誰が…その…つまり、裏切り者で、なにでそう判断したのかを知りたい。」
名影はふっと息を吐くと芦屋を力強く見上げた。
「教えてもいいけど、もし万が一本人にその話をして、こちらにつきたいと言ったら許してあげて。」
「正気か⁉︎」
名影はもちろんと言わんばかりに大きく頷く。
1度裏切った人間をそばに置いておくなど危険極まりない。賛成は出来ない。しかし名影の考えや方針はらめったにはずさないし、あくまでこのクラスの最高指揮官は名影だ。
「…っ分かったよ。でも相手がバレたからって逃げ出したら?」
「来るもの拒まず、去る者追わず…だよ。」
こんなとんでもねぇ状況でよくそんなこと言えるな…。ある意味そういう姿勢が首席たる所以なのかもしれない。
「でももし襲ってくるようなことがあったら俺は容赦なく反撃するぞ?」
「それは…仕方ないし、止めない。」
名影から見ても、芦屋は"出来た奴"でありきっとこの先も"出来る奴"だ。その場の最善の判断、現在やるべきことの全てを瞬時に見極められる。
「で、裏切り者含めて諸々どうすんだよ?」
「たぶん西校の人達は救出の方を当然やりたいと思うのよ。でも当然向こうだってそれは視野に入れてるはず…そこでこちらから3人はB地区の方の見守りをしてもらおうと思うの。」
名影も芦屋も、正直今年に関しては西校よりも東校の方が優れていると思う。それは学の話では無い。戦闘訓練なども足して、総合的に見て、である。
いや単純に優れている、というよりはぶっ飛んでいると言った方が正確かもしれないが。
「で、移動している…恐らくこちらはわざと仕掛けられたのであろう反応の方は裏切り者含め8人でいってもらうわ。」
「8人?2人多くねぇか?」
「裏切り者が敵側についた場合も考えて特別に2人手伝いをお願いしようと思ってるの。」
手伝い?しかしこんなタイミングで明らかに危険なども案件を受けてくれる人間が身近にいるとは思えない。仮に受けてくれたとしたなら逆にそいつらもトランプサイドの人間なのではないかと思ってしまう。
「大丈夫よ。2人とも私の友達だから。」
「友達?お前PEPE以外に友達いたのか?」
「まさか‼︎PEPEにいるのよ、2人とも。」
いやいや…まさか名影他クラスから引き抜くつもりか?役に立ちそうな奴がいるとは思えないぞ…
「役に立つか不安なんでしょ?絶対大丈夫だから‼︎一応あとで2人の情報まとめた書類あげるよ。あ‼︎でね、B地区の方には私、ロブ、恩で行くから。」
「…は⁉︎お前がそっちかよ⁉︎」
名影はきょとんとして「当たり前だろう」とでも言いたげだ。
「大丈夫よ、ティトだっているんだし。大体あんた次席でしょうが。」
芦屋は出来る奴だ。確かに出来る奴だが…仕切るとなるとめっぽう苦手だった。そもそも上に立つタイプじゃない。
「本気かよ⁉︎」
そりゃティトがいればある程度まとめあげるのは彼女がやってくれるだろうが…
「とりあえず、今夜もっとちゃんと話をまとめよう。お前の部屋行くから。」
「いやいや、真城が許さねぇだろ。だいたいここで話してくれりゃいい。」
「潤も連れてくからいいのよ。それでまた旧式ゲームでもやっててもらえばいい。」
「いやでも…っ‼︎」
突然屋上の扉が開き、誰かがひょこっと顔をのぞかせた。
アレイと伏だ。どうやら夕飯の支度が出来たので呼びに来てくれたらしい。
「2人ともーご飯できたよー‼︎ごはーん‼︎」
叫ぶ舞人に手を挙げて応えつつ歩き出すと、後ろから名影の囁きが追ってきた。芦屋にだけ聞こえるような声だ。
「私達とはベクトルが違うのよ。」
芦屋は咄嗟に振り返り名影を見た。名影の表情は少し哀しそうに見える。
芦屋は頭をフルに回し、そしてまばたきするよりも早く、意味を理解した。遠回しで曖昧だが、適当な相槌の打ち合いになれている芦屋と名影だからこそ…通じた。
「夕飯…だってよ。」
「うん…」