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トラストルノ  作者: なさぎしょう
序章
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戦闘訓練 ティトvs真城


さっきからティトはずっと模造刀一本で勝負を仕掛けてきている。かくいう真城自身も模造刀のみでの応戦なのだが…

ティトには"隠れた2つ目"の武器がある筈だ。

というかむしろ、普段は日本刀なんて使わない。使うのはもっぱら、リボルバーの小銃。だから先程から、懐に手を入れるような動作など不審な動きが無いか意識を集中させている。


「あら、余裕?」


斬り込みの1つ1つをうまくかわしつつタイミングを計っていると、ティトが不敵に笑いながら聞いてくる。


「余裕な訳っないだろっ‼︎」


実際、刀の軌道を読んで避けるのは余裕だ。名影と数回やりあえば、他の人間の動きなんてスローペースに見える。

ただ、気持ちの上で余裕がない。

いつ飛び道具を出されるかと思うと気が抜けない。といっていつまでもあしらっているだけでは埒があかない。

踏み込まなければ。


思いきり右手に刀を振ると、一瞬、ティトの意識がそちらに向く。その瞬間に勢いよく踏み込み、相手の懐に入り込む。


「…っ‼︎」


寸前でティトが刀を振り上げかわそうとするが、真城の方が一瞬早く、ティトの腹部に赤い線が引かれる。

しかし、戦闘中止にはならなかった。まだティトは戦える、と見なされたのだ。


「くそっ‼︎」


真城が今度は刀を左手に持ち替え、体勢を先程よりもさらに低くし間合いを詰める。

さっきよりもティトの表情までもがはっきり見える。首元に狙いを定めて、刀を引く。

…が、ティトは何故か刀を手から離し、左手で真城の模造刀の刀身部分を掴んだ。そして、右手を懐へ入れ、小銃を引き抜く。


「撃たせるか‼︎」


真城が全体重を前へかけると、ティトごと倒れ…そうになるが、ティトが素早く片脚を曲げ、真城を蹴り退ける。2人共床に倒れ、ほぼ同時に立ち上がった。


動くな(フリーズ)‼︎」


ティトが銃口を真城に向ける。

真城も斬り込める体勢にしてある。

それでも、飛び道具に刀一本で臨むには距離が開きすぎている。


「自分で申し出てもいいのよ?」


そんなの知ってる…


「ギブ…模造刀だからって刀身掴むのズリィぞ…‼︎」


「そうね、ちょっと意地の悪いやりかただったわ。」


ティトはごめんなさい、と言って申し訳なさそうにする。

まぁ、負けたからとあぁだこうだ言うのは良くないよな。ただ、刀身を掴むなんて実際の刀相手に出来るかどうかわからない事をやるのは、訓練の意味がなくなる…

と言っても、負けてしまえば全て言い訳だ。

もっと強くならなくては。

Sクラスに見合うように。

名影の横に堂々と立つ事が出来るように。





刀は扱い辛い。こんなので昔の日本人(ヤーパン)は戦っていたのかと思うと尊敬する。

一本一本の長さが絶妙に違うし、反り方も違う。

ただ、かっこいい。



「かっこいい‼︎」

「まだこんな武器(すてきなもの)扱える人なんていたんだ‼︎」

「綺麗だね〜」



名影がやってきて、はじめての戦闘訓練の時のティト、ロブ、恩の年長組のはしゃぎようはすごかった。名影の方が驚いて引くくらい3人共"日本刀"に興味津々だったのだ。

しかし3人共、主要の持ち武器として刀を扱えなかった。


「あら余裕?」


なんて聞いてみるが、実際は自分の方が余裕がなくて焦っている。どれだけ斬りかかっても、素早く避けられかわされる。

ただ、向こうから深く入り込んでくることはない。おそらく愛銃(リボルバー)を警戒されているのだろう。

それもあってかかわしはしても、極端に離れて距離をとることもない。



真城は後から"首席推薦"で入ってきたこともあってか、本人は周りに追いつこうと頑張っているようだが、学力などはともかく、戦闘訓練においてははじめから追いついている、というよりもしかしたら秀でているように思う。かくいうティトも真城には敵わない部分があると感じている。

それになにより、どんな理由であれ、あの首席(なかげ)が"Sクラスに相応しい"と判断したのだからきっと彼はSクラスにいるべき人材なのだろうし、もっと自信を持っていいのだ。

…といってもシヨンなどは毛嫌いしているようだが。



一瞬考え事をしてしまい、集中が揺らいだ瞬間、真城が刀を思いきりよこに振りきり間合いを詰めてくる。


「…っ‼︎」


まずいっ‼︎

避けきれない、早すぎる。

腹部に重い衝撃が走る。模造刀とはいえ、切れないだけで、上手く斬り伏せるようにすれば斬られた方は痛みを感じる。

血こそ出ないが、ティトの腹部には1本赤い線が引かれる。

日本刀は僅かでもスパッと綺麗に斬れるという…あれだけ体重を乗せて斬られたのなら、腹は裂けているのだろう。高性能判定機(レフェリー)もそう判断するはずだ。


しかし、高性能判定機(レフェリー)の判断は"戦闘可能 1HIT 腹部中傷"だった。

"腹部中傷"でも、立てるならば戦え、というのだ。

実際の戦場に行かされたら、確かに少しの怪我で動けなくなっていてはいけないかもしれない…が機械にそれを判断されると(おぞ)ましさすら感じる。


「くそっ‼︎」


真城も判定に不服があるようだった。

しかし気持ちの切り替えが真城の方が早かった。


先程よりも早く、深く、間合いを詰めてくる。真城と目が合う。



…‼︎‼︎



咄嗟に「離れなければ」と強く感じ、刀身を掴んで、愛銃(リボルバー)を取り出そうとする。

しかし、撃つより前に、真城に後ろへ押し倒されそうになり、蹴り上げ、床に転がると同時にそのまま立ち上がり、銃口を真城に向ける。


先程のは…殺気、とも違う…なんだ?


「自分で申し出てもいいのよ?」


そう言うと、さっきまでの研ぎ澄まされたような空気は消え、悔しそうな顔をする。


「ギブ…模造刀だからって刀身掴むのズリィぞ…‼︎」


「そうね、ちょっと意地の悪いやりかただったわ。」


でも、そうしてまで離れたい、と思わせるほど…真城潤という男は"何か"を持っている。それはきっと天賦の才なのだろう。




さすが…首席がわざわざ呼び寄せるだけはある。


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