怠さ
罠を仕掛け終えて、シャワーだけ浴びるとすぐに女王の邸宅へむかった。本当は、自分が来ることを女王は快く思わないのだが…まぁ客人がいるのは離れの地下だし問題なかろう。
離れに入ると5人の15〜6歳の子供がいる。全員が一様に絵本を読んだり、玩具で遊んだりと、年相応とは思えないことをしている。
全員が女王の可愛い客人達だ。
彼女の過剰な愛と保護のもとで、正気を保てたものは1人もいない。全員が発狂し、しかししばらくすると、安寧のもとに身を委ねる。優しく美しい女王のもとで金にも食にも…愛にも飢えることなく生きていけるのだ。
…俺のせいだな。
しかしどれだけ安心安全だと言ったって、幸せではなかろう。5人全員の目に光はない。虚ろで貼り付けられた微笑をたたえ、玩具や絵本と戯れる。
あの西の客人もこうなってしまうだろうか?
それともそこはPEPEのSクラス、耐えてみせるのだろうか。まぁその前にお迎えが来てしまいそうだが…
「やぁ元気かい?」
今見てきた光景に心が抉られたが、努めて明るい風を装う。
「そこそこかな。」
捕らえられているというのに、なんてことはなさそうにしている。
こいつら…すげぇな。敵ながらあっぱれ、と思ってしまう。
「今日のお相手はどうだった?年も近いし話も弾んだろう?」
何の気なしに聞くと、カルマはジャックの方をチラリと見てからふっと緩んだ笑いを零す。
「彼はなにも余計なことは話してませんよ?」
「別にそんなこと疑ってないよ?」
ジャックはエイトに関しては、本当に微塵も疑っていない。彼には枷がある。そう簡単には裏切ったりしないはずだ。
「なぁ…女王はどうだった?」
気が弱ってたのかもしれない。普段なら絶対に聞かないようなことを、絶対に聞かないような相手に聞く。
「?もちろん余計なことは話してなかったよ?」
聞きたかったのはそういうことではないのだが…また聞く気にもなれずに「そうか」とだけ言い、自分と客人の分の夕食を作りにキッチンへ行く。
すると後ろからカルマの声が追ってきた。
「すごく美人だよね。ただ、精神疾患があるみたいだ。」
精神疾患…まぁ簡単に言えば精神が病んでるのだ。言い方は悪いがそういうことだ。
また母親ごっこをしてたんだろう。
「あの人は"母親であること"に強く執着してるみたいだった…お子さんを亡くされたのかな?」
カルマの冷静さと観察眼にジャックは驚く。
「いや、息子は元気だよ。」
「あぁ息子さんなんだ。」
あぁうっかり、うっかり余計な情報を与えてしまった…。カルマの持つ独特の空気が、なんとなく話をさせるのだ。そういやエイトからも何か聞いたのだろうか。
「そういや、エイトとは何を話してたんだ?別に疑ってるとかではなくな。」
「別に。互いの友人についてをさ‼︎彼には素敵な親友がいるようで羨ましいよ。」
「お前は友人がいないのか?」
「いやいや、いるよ‼︎いるけど…幼馴染とか親友って呼べるような仲の人間となると…」
カルマは苦笑しつつ答える。
ジャックはちょっと意外な気がした。カルマみたいなタイプは友達が多く、友人の話でそんな困り顔をされると思わなかったのだ。
「ねぇ、俺退屈なんだよね。俺が個人情報とか諸々教える代わりにさ、女王とその息子さんのお話を知ってる範囲でいいから教えてよ‼︎」
いやそんな退屈しのぎにするような話か?
だいたい"知ってる範囲"もくそもない…
だって…