囮
「ジャック、メッセージが届いてるぞ。」
「誰から?」
「サイスとエイトからだ。」
「エイトの方だけ開いてくれ…サイスのは消していい。」
「読みもしないのか。」
「どうせまたくだらない嫌がらせの類だろ…」
ジャックは着けていたアイマスクを少し上げ、その隙間から隣に座るテンを見た。彼は印象が薄い。特別影があるでも、華があるでもない。スナイパーとしてはもってこいのタイプだ。
そしてジャックの唯一の友人である。
「あぁ本当だ。今回はリストを取り損ねたらしいな云々……彼は暇なのかな?」
「知らん。くそどうでもいい。あいつ自身はどう思ってるか知らないがケイトやシンクも相当嫌ってるぞ。」
「まぁケイトなんかは特に嫌いだろうねー…」
テンは白い指でサイスからのメッセージをはじく…とメッセージは空中で花火のように弾けて消える。ホロでわざわざ丁寧な演出だ。
「エイトからは…今日の夜だけでも客人の世話を代わってくれないか。だそうだが?」
「また7番に何かあったか?」
「さぁな。まぁエイトがわざわざ連絡してくるってことは7番関係だろうよ。代わるのか?」
「まぁ…罠だけ仕掛け終わったら夜なら代われるかな。どうせPEPEが動くとしたら明日だろうしな。」
「でも…嫌じゃねぇのか?」
テンが努めてなんでも無いことのように聞くと、ジャックもなんでも無いことのように「別に」と返す。
夜は、ジャックだけじゃなく自分も行こう。
「ここか?」
「あぁ…ここだ。」
自動運転車で着いたのは海沿いのコンテナ群の一角だった。赤や黄色、青に緑…沢山の色合いのコンテナが所狭しと並べられている。しかも二段三段と積まれているため、圧迫感がすごい。
閉じ込められているような感覚だ。
「インクはこっちも利用の方法があるからありがたいよな。」
ジャックが懐からビニールジッパーに入ったチップのようなものを取り出す。そのチップの中には透明な液体が入っている。
「それで連中をおびき出すわけか…ってかナインにインクの事は言ったのか。」
「いや…連絡が行き違ったみたいでな。そっちのフォローもなんとかしたいんだけど…もう手遅れかもな。」
「ナイン失うのは痛いぞ。」
「あぁ、だから最悪"囮"は俺がやるから、テンがナインの救出をやってよ。」
2人は話しながらひょいひょいとコンテナの間を縫い、上に登り、コンテナからコンテナへ移っていく。
やがて簡易な王冠が描かれたコンテナを見つけ、その中へ入っていく。中は夏でもないのにむあっと暑い。
「蒸してんなー。」
「あっつ‼︎」
テンがタオルを投げてよこす。2人して吹き出してきた汗をぬぐいつつ、罠の準備に取り掛かる。
「でも本当に俺らを追ってくるかね?」
「あぁ、西校と東校が今回は手を組んでくるはずだ。今年の東校のSクラスの連中は相当ぶっ飛んだ奴ばっかりらしい…ってことは力がある分、二兎を追ってくる可能性が高い。」
「でも二兎を追う者は一兎をも得ず、とも言うけどなぁ。」
「もちろん、連中には一兎も得させないつもりだけどさ。」
今回は女王の命で、攫ってきた餓鬼取られないために、仲間が囮として動く。なんともおかしな話だ。
それでも、俺はあの人に逆らえない…逆らいたいとも思わないけど…