裸の王様
「ジェスターも僕のこと嫌いなのかと思ってたよ。」
ジェスターは目の前の椅子に膝を抱えて座る少年をじっと見る。細すぎる身体に、赤毛。灰色の瞳。濁っているようにさえ見えてしまうのは、彼の表情がいつも一辺倒沈みがちなせいだろう。
「みんな、僕のことが嫌いなのに…僕は裸の王様さ…祭り上げられて笑われる。」
ジェスターはなにも言わずに椅子の背の方へ周ると、後ろからキングの首元に腕を滑り込ませる。
キングはその腕に頬をすり寄せながら、ジェスターの顔を見上げる。
「なにが…あったの?」
「なにがあったわけではないの。」
「そっか…じゃあこれから何をしでかすの?」
「……貴方が手伝ってくれるって言うなら教えてあげるわ。」
キングは困ったように眉を下げ、しかし「わかったよ。ジェスターのために」と答えた。
ジェスターは優しく、キングの額に口唇を押し当てると、耳元に囁きかけるように話し始めた。
「SOUPの研究機関"TITUS"からレベルEの被験者が逃亡したようなの。きっとこれから世界は大混乱に陥る。トラストルノは崩壊するかもしれないわ…」
「レベルEならトラストルノの崩壊を待たずして人類滅亡じゃないの?」
「そうね…まぁそれはどちらでもいいのよ。」
ジェスターは少し目を伏せる。
「誰か、や何かではなくて…私が終わらせたいの。」
「なにを?」
「…………亜細亜座を。」
「………………。」
キングにはこの後続く言葉が分かっている。そしてそれに対して自分は抗う術が無いことも。
ジェスターにとってキングは目に見える"呪い"だ。そんな僕に頼み事をしてくれている…
「いいよ。僕も一緒に居てあげる…ううん、居させて。」
「…ごめんね、ありがとう。」
キングの髪に顔を埋めてジェスターは震える声で何度も「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返す。
キングの肩や鎖骨には髪を伝って温かい水滴が落ちてくる。
キングはただじっと、その小さな身に愛を受ける。
2人の時間は静かだった。