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「さて、そうと決まれば、まずは…準備だな。荷物や家族に一言ってのもあるだろうし、一旦君んちに行こうか」
家族に一言という言葉を聞いて結は苦笑した。
必要あるのだろうか、そんなもの。
「そうですね。じゃあ、ちょっと行ってきます」
そう言って踵を返した結の肩をベルが掴んで、引き止めた。
「いや、その必要は無いよ」
結の困惑する顔を愉快そうに眺めながら、ベルは指を鳴らした。
「え…!? ここ、私の部屋…!?」
さっきまで学校の屋上にいたはずなのに、一瞬の内に結の部屋に移動していた。
「これも魔法なんですか?」
「ちょっと違うな。まぁ、似たようなモンだ。さ、荷造りしようぜ」
結の質問を煙に巻きながら、ベルは学習机の椅子に腰掛けた。
釈然としない顔をしながらも、結は荷造りを始める。
ベルはその間、机の上の物をジロジロ見ていたが、やがてハリー・ポッターの本に目をつけた。
「おっ、ハリー・ポッターじゃん。読んでるの?」
「ええ、まぁ…」
「俺も好きなんだよ」
悪魔もハリー・ポッター読むのかよ、と結は内心ツッコミを入れた。
「ポッター! 10点減点!」
「スネイプ先生好きなんですか?」
「おう! あいつカッケェよな」
荷造りが終わるまで、ベルはハリー・ポッターについて語り続けていた。
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「荷造り、終わりました」
「おう、お疲れ様。さて、後は家族に何か言っとくか?」
「…いや、いいです」
「そうか。なら行くか!」
そう言って、またベルはまた肩に手を置いた。
そして、また指を鳴らした。
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今度は暗い路地裏だった。
赤いレンガで形成された建物に挟まれている。
「ボケっとしてんな、行くぞ」
そう言って、進むベルの背中を重いボストンバッグを抱えながら、結は追いかけていく。
やがて、明るくなり、路地裏を抜けると、大通りに出た。
「す…すごい…」
そこは多くの人で賑わっていた。
いや、よくよく見ると、羽があったり、浮かんでいたり、角を生やしてみたりと様々だ。
それだけではない。
道を歩いている馬車の様なものにはドラゴンが繋がれている。
「ようこそ! 我らが世界へ!」
ベルは唖然とする結にそう言った。