決意
「なぁ、聞いてくれよ。さっさと用事済ませたいんだ。腹減ったんだよ」
「ふざけるな! こっから生きて返さんぞこの悪魔め!」
「…もしかして腹減ってんのか?マック行く?」
「行くわけないだろ!」
ベルと神父の様な男は押し問答を続けていた。
「(…今がチャンスかな…早く屋上から逃げよう)」
そう思って結は出口に向かってソロソロと歩き始めた。
その間も神父の様な男がヒートアップしていた。
「もういい! この純銀の剣を喰らえ!」
そう言いながら懐から銀色の剣を取り出した。
そして、その剣を大上段に振りかぶり、思いっきりベル目掛けて振り下ろした。
「あらよっと」
それをあっさりとベルは交わし、カウンターに腹にパンチを叩き込んだ。
神父の様な男は5メートルほど後ろに吹っ飛んで、ピクリとも動かなくなった。
「…はぁー。おい、ちょっと待て」
「ヒッ…な、何ですか?」
出口目前まで移動していた結が真っ青な顔でベルの方を向いた。
「いや、あんな、そんなビビんなくていいからさ」
「は、はい…。あ、あのさっきの…」
「ん…あぁ、魔女狩りのメンバーさ。時代遅れだよな、まったく」
結はまったく事態が呑み込めずにいた。
まず、魔女狩りは中世ヨーロッパの話だ。
それに、その狩りの対象になったって事は…。
「君は魔法使いだ。思い当たるフシがあるだろう?
何か特殊な力が使えたりするんじゃないか?」
図星をつかれ、結は仰天した。
「こ、この力について、何か知ってるんですか!?」
「勿論。ほら」
そう言うとベルは手の平を差し出した。
次の瞬間、手の平に火花が散った。
火花は徐々に大きくなり、やがて小さな炎となった。
結はその光景に感動した。
自分以外にも居たのだ、普通じゃない人間が!
「人間の中でこの力を操る事が出来るってのは、すげぇレアらしいぜ」
「………」
「さて、こっからが本題だ。お前、この世界は窮屈なんじゃないか? 生きづらいだろ」
その通りだった。
友達も家族も何もない日々、正直死にたくなる日だってあった。
周りとは違う自分にいつも結は怯えていた。
「…はい」
「だよなー。でな、魔女狩りも彷徨いてて危険だし、君を我々の国にご招待したいと思ってるんだ」
「我々の…国?」
「そう。君みたいなこの世界のはぐれ者や人間じゃない連中がいる所さ。どうかな?」
そう言って、ベルは手を差し出した。
その手を見ながら結は考えていた。
この世界から逃げ出したい、ラノベの様な異世界に行けたらいいのに、そう思いながら今まで過ごしてきた。
今、この手を取れば夢にまで見た世界に行けるのだ。
チャンス!逃すわけにはいかない!
結は思い切って、ベルの手を握った。
「よし! 決まりだな。俺の名前はベルフェゴール。ベルって呼んでいいぜ」
「神原 結です! よろしくお願いします!」
こうして結は新たな道を歩むのだった。