オニ
「これ、誰がやったの!?」
ホテルで働く小山は、お局様の怒りに私じゃありませんように、と祈った。
このお局様、年は50代なかば、ベリーショート、紫のアイシャドウに赤い口紅という奇抜な見た目という強者だ。
「小山さん!? あなただって聞いたんだけど?!」
仁王立ちで目の前に立ちはだかる彼女は鬼のよう、ではなく鬼にしか見えない。
ちくちくと、小さなことを見つけてはいびる、まさに姑だとここでは有名なおばさんだ。
「はい、私ですけど」
「これ、どう思います?」
そういって指差した先を見ると、私がやったベッドメイキング。
ベッドに敷かれたシーツのことをいっているようだ。
どう、思いますって、なんとも思わない。
むしろ、綺麗にできてるじゃん。
「あの、すみません、なにか間違ってましたか?」
私は笑顔を顔に張り付けて鬼に媚びへつらう。
仕事だからってのもあるけど、それだけじゃない。
「まぁまぁ、小山さんもわざとじゃないんだから。 業務戻っていいからね。」と、いつもなんだかんだ私をかばってくれるのは、このホテルで一番偉い人だ。
偉いといっても雇われだけど。
お局の旦那様でもあり、私の彼でもある。
私は彼にアイコンタクトを返してそそくさと業務に戻った。
ばれるかばれないか。
ばれたらお局はどうするのか。
ばれたら私はどうなるのか。
ばれたら彼はどっちをとるのか。
なんてスリルがたまらない。
私が彼らを操っているような、神様にでもなった気分で。
「小山さん、大丈夫だったー?」
「ちょっとびびりましたぁ」
「あのひと、旦那が偉いからって勘違いしてんのよ」
「気にしないほうがいいよ」
「更年期なんじゃね? あのばばぁ」
「「「アハハハハハッッ」」」
パート仲間はもちろん知らない。
本当のオニはわたし?