夢食い
たぶん何かの番外扱いになる。
「まあ、話でもしようか。」
時刻は深夜2時、俺は明日9時までに提出のレポートをパソコンで書いているところだった。突然、自分以外に誰もいないはずのアパートで後ろから声をかけられたのだ。強盗かと思ったが、振り返るとそこにはまだ中学生くらいのピエロのような恰好をした少年がいた。奇妙だが害はなさそうだ。
「まあ、君が驚くのも仕方ないさ。君はしっかり戸締りしてレポートを書いていたわけだしね。じゃあなんで僕がここにいるかって?まあ、無視しないでおくれよ。」
「俺が今やらねばならないのはレポートの作成だ。どうやってこの部屋に入ったかは知らないし、どんな目的で入ってきたかは知らないが、お前に構っている暇はない。」
「冷たいねー。まあ、良いさ。君が何をしていようがこの話を聞き流しでも聞いていれば良いのだからね。」
ピエロ少年がなんだか言っているが、正直どうだって良い。このレポートを完成させないと俺の単位が危ないのだ。
「まあ、何を話したいかっていうとね。世の中には『夢食い』という存在がいるんだよ。人間じゃないんだよ。『獏』だなんて名前で呼ばれていたこともあるね。まあ、人が寝ているときに見た夢を食べる存在のことだよ。夢は何でも食べらるけれど、一度食べた夢は僕たちの中にしか残らない。見た本人の中からは消えてしまう。だから、どんなに楽しい夢でもどんなに怖い夢でも、僕たちが食べればきれいさっぱり消えちゃうのさ。うーん、後はそうだねー。夢をいろいろ操れちゃったりもするよ。まあ、こんなもんかな。」
「俺はレポートを書いていて聞き流していたが、何が言いたいのか分からないぞ。お前が俺のところに来た理由も分からない。」
レポートを書いていた手を休めて、ピエロ少年の方を向くと、ピエロ少年はニタッと笑った。
「まあ、何が言いたいかっていうと、『夢食い』は指名制で、次はこの長い生を君が生きなきゃいけないってわけさ」
ピエロ少年が俺の額を人差し指でトンッとつついた。
人間終了のお知らせ。この日から、俺は『夢食い』になった。